局地戦部隊と遠征部隊を持つ? Lasiodiplodia 属菌 ―補足―

 この記事の基になった質問を頂いた読者とは別の方から「有色2細胞分生子が水に馴染まないのなら、面白そうですね。」とコメントを頂きました。確かに、「無色単細胞分生子は水分と馴染み高湿度の場合は粘塊になり水媒分散に向いている」と説明しましたが、有色2胞分生子の水との相性については書きませんでした(隠し子続出の?Lasiodiplodia属菌)。そこで、これまで撮影したLasiodiplodia属菌の分生子の写真を見返してみました。すると、萎れてへこんだり潰れた有色2胞分生子が、丸々とした無色単胞分生子とともに写っている写真がいくつかありました(図1A)。これは何を意味しているのでしょうか? たまたま、同じ単細胞分生子と2細胞分生子を乳酸液に封入した直後と3週間後に撮った写真がありました。萎れてへこみ、あるいはしぼんだ有色2細胞分生子(図1B, C)が3週間後には丸々と膨れて縦縞模様がはっきり見えています(図1D, E)。しかし、図1A-Cのいずれでも萎れてへこんだ無色単細胞分生子は見られません。つまり、分生子殻から外に押し出された有色2細胞分生子は含水量が少ないためか、潰れたりへこんでおり、後に水分があると徐々に吸水して膨れるということではないでしょうか。2胞分生子の色はメラニンだろうと書きましたが(隠し子続出の?Lasiodiplodia属菌)、強くメラニン化した部分は透明な壁より水分を通しにくくなっているのかもしれません。一方、無色単胞分生子は分生子殻から押し出された後、封入液の中のような環境では速やかに水分を吸収して膨れた状態を維持すると考えられます。

図1.Lasiodiplodia属菌の単細胞無色分生子と2細胞有色分生子(B-C:位相差顕微鏡像)、A.萎れて潰れた有色分生子と丸々とした無色分生子、B, C.マウント直後の潰れた有色分生子とへこみのない無色分生子、D,  E.マウント3週間後の丸々と膨れた両タイプ分生子.

 ところで、風で運ばれるサビキンの夏胞子は乾燥状態ではフリスビーのように中央がへこんだり潰れていて、膨らんだ状態より空中にとどまりやすいと考えられます(図2A, B)。へこみがわずかな場合は空中で背中側が重くて下になり(図2A)、逆にへこみが著しい場合は腹側のドーナツ状の下部に内容物が集まり下になるため(図2B)、丸い形より空気抵抗が増すはずだからです。また、サビキンには宿主に固着した冬胞子を持つ種と、容易に柄から脱落し飛散する冬胞子を持つ種があり、前者の冬胞子は表面が平滑であるのに対して、後者はいぼなどの突起に覆われてるものが多く、空気伝染性(風媒性)に優れていると考えられます(図2C, D;Savile D.B.O., 1976: Evolution of the rust fungi (Urediniales) as reflected by their ecological problems. Evolutionary Biology 9,137–207)。それは風により飛散する夏胞子やさび胞子に例外なく突起がある理由と同じでしょう(図2B, E, F)。話を戻します。Lasiodiplodia属菌の2細胞分生子も吸水前は多くがスプーンの先かプロペラのようになっていると考えられます(図1A, B)。羽の付いたモミジの種子がくるくる回りながら少しでも遠くに分散するように、また、上記のサビキンの夏胞子のように、つぶれた2細胞分生子も滞空時間を稼いでいる可能性があります。さらに、萎れた2細胞分生子の縦畝は膨らんだ時より張り出しているはずですから、空中浮遊力が増していそうです。2細胞分生子は以上の特性から、単細胞分生子より風媒性が高いと言えるのではないでしょうか。

図2.サビキン類の夏胞子、冬胞子およびさび胞子(走査電顕像.バーのスケール:A-Eは5 µm、Fは0.5 µm)、A.オオバナセンダングサ上Uromyces bidenticolaの乾燥した夏胞子(側面中央部が凹んでいる.左図:断面推定図)、B.ハイニシキソウ上Uromyces kawakamiiの乾燥した夏胞子(下側から壁が陥入している.左図:断面推定図)、 C.キダチハマグルマ上Uromyces wedeliaeの固着性冬胞子(表面平滑,窪みは発芽孔)、D.ハイニシキソウ上U. kawakamiiの脱落性(風媒性)冬胞子(表面全体にいぼが密布)、E.ナシ赤星病菌Gymnosporangium asiaticumのさび胞子、F.Eの表面の拡大(微小ないぼが束になって各いぼを形成している).