今回は、「鉄砲隊、足軽、忍者・・・菌核達の戦い方」に登場した農業生物資源ジーンバンク(NAROジーンバンク)の微生物画像データベースについて紹介したいと思います。これはユーザーが農業生物資源ジーンバンクの微生物遺伝資源を形態的特徴等から探すことができるようにとの目的で、配布菌株の培養コロニー、顕微鏡検査で撮影された胞子など、罹病植物など当該菌株の分離源および接種試験等の写真に説明を兼ねたタグを付けてデータベース化したものです。
上記Web siteのトップページに検索語(フリーワード)入力ボックスがあります。ここに病原菌学名、植物名などの分離源、分生子などの器官名、病名、6桁のMAFF菌株番号などを入力して検索ボタンを押すと、ヒットした画像の縮小見本(サムネイル)がすべて表示されます(図1A-例:MAFF 238342)。例えば炭疽病菌の属名「Colletotrichum」を入れて検索すると、現在4,247点の画像がヒットします。閲覧したい画像をクリックすると拡大表示され、その拡大画像上でカーソルを合わせた部分がさらにクローズアップされます。もちろん、閲覧は無料で英語版サイトもあります。今のところ国内では植物病原菌類の画像が最も多く(27,732点)、多様な菌類の姿を知るためにとても有益なデータベースになっています。ちなみに「鉄砲隊、足軽、忍者・・・菌核達の戦い方」で取り上げた菌核病菌Sclerotinia sclerotiorumの培地上に形成された菌核は、宿主上のものとほぼ同じ形状であることが明らかですし(web page参照 宿主上、培地上)、子のう胞子以外に受精に関わる小分生子(精子)を作ることも分かります(web page参照)。また、イネ紋枯病菌Rhizoctonia solaniの菌核は培地上と宿主上では見た目の差異が明瞭です(web page参照 培地上、宿主上)。
図1.農業生物資源ジーンバンクの微生物関連リレーショナルデータベース.Aは微生物画像データベースでMAFF菌株番号238342を検索した結果表示された縮小見本.Bは微生物遺伝資源の検索でMAFF 238880を検索した結果表示された詳細ページ(写真データの縮小見本は微生物画像データベースの当該ファイルにリンクされている。特性欄の「カランコエ斑点病」は日本植物病名データベースの該当詳細ページにリンクされている)。Cは日本植物病名データベースでカランコエ斑点病を検索した結果表示されたWeb page(ページ内ウィンドウはカランコエ斑点病の詳細ページ。関連菌株の点数は微生物遺伝資源の検索の検索結果一覧Dにリンクされており、DのMAFF番号は微生物遺伝資源の検索の詳細ページにリンクされている)(農研機構農業生物資源ジーンバンクのWeb pageを用いて作図).
形態のバリエーションに富む菌類では種内変異も大きく1種当たりもっと多くの画像を集める必要がありますが、それらを学習させた物体認識AIによる菌類同定支援アプリを作成することも可能と考えています。このようなアプリと同ジーンバンクの「植物病原微生物の分類・同定支援システム 塩基配列データ検索(web page参照)」との併用により、経験の浅い人でも的確に分類・同定ができるようになると考えられます。初心者には識別の難しい形態(画像)と同定には複数必要な塩基配列は、お互いの弱点を補完する関係にあるからです。特に菌類では、属や科によって分類同定に有効なDNA領域・遺伝子が異なる場合があるため、AIアプリにより属の見当がつけば、塩基配列による種以下の同定がスムーズに行えます。逆に、通常観察されにくい菌類の有性世代は画像情報がわずかしかありませんが、塩基配列を用いた検索により容易に有性世代が分かり対象菌の分類学的所属を明らかにできます。
ところで、同ジーンバンクのいわゆるWeb微生物株カタログ「微生物遺伝資源の検索(web page参照)」の詳細ページに表示される画像は、微生物画像データベースの該当ファイルにリンクされています(図1A,1B-例:MAFF 238342)。また、「日本植物病名データベース(web page参照)」の詳細ページに表示される「関連菌株」の株数(図1C-例:カランコエ斑点病)をクリックすると、「微生物遺伝資源の検索」の検索結果一覧(図1D-例:MAFF 238342)にジャンプします。ここに表示されるMAFF菌株番号をクリックすると当該菌株の詳細ページが開き閲覧できます(図1B)。日本植物病名データベースは文字情報のみですが、関連菌株に画像がリンクされている病害については、病原菌や病徴の写真も見ることができますし、病原菌の学名などで微生物画像データベースを検索すれば多くの場合関連画像を閲覧できます。逆に、「微生物遺伝資源の検索」の詳細ページの「特性」に病原性「○○病」が表示される場合は、その菌株の病原性が確かめられており、日本植物病名データベースの該当詳細ページにリンクが張られています(図1B, C)。このように農業生物資源ジーンバンクの3つのデータベースは互いに関連付けられたリレーショナル・データベースになっており、使い方に慣れると有益な情報がたくさん得られます(図2)。なお、日本植物病名データベースの外部サイトとのリンクについては佐藤ら(2013)に解説されています。
図2.農業生物資源ジーンバンクの微生物関連データベースのリンク関係(アルファベットは図1の各Web pageに該当).
これまで主に遺伝資源研究センター関係者の撮影した写真が微生物画像データベースに蓄積されてきました。筆者の画像では残りの4,500点以上が間もなく同データベースに追加される予定です。農業生物資源ジーンバンクに菌株を寄託された皆さんも関連するデジタル画像を寄贈されてはいかがでしょうか。きっと植物病原菌の電子図鑑として国内外で病害診断や防除に役立つことでしょう。