己を知り学生を知らば百答危うからず(その6)

前回に引き続き、新潟食料農業大学「微生物学概論」の講義で受けた質問と回答を紹介します。

問:ジベレリンでブドウ以外の果樹を種なしにできるか?
答:日向夏などの柑橘類、カキ、ビワでも種無しになるが、やや小さくなるあるいは縦長になることがある。また、メロンやナス、トマトなどの野菜でも利用され、メロンでは着果促進、ナスには着果数増加や、トマトは空洞化防止にも役立っている(Kurashi-no「ジベレリンが植物に与える5つの効果とは?その種類や毒性についても解説!」)。

問:代替エネルギーに利用できる微生物は?石油は地質時代の微生物の産物だが、その微生物を培養して石油を作れないか?微生物の利用はこれから先どのように発展していくと考えられるか?
答:脱炭素やSDGsの環境分野で利用が盛んになると考えられる。今となっては地質時代の微生物は利用できないが、例えば、現存の微細藻類で石油類似成分を生産するボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)等の微細藻類に燃料油を作らせる(一般社団法人 藻類産業創成コンソーシアム「オイルを産出する主な藻類」)、微生物を使って発電・燃料用のメタンやアンモニアを生産するなどが考えられている(環境省 廃棄物・リサイクル対策「メタンガス化に関する基本的事項」、TECH+近未来テクノロジー見聞録第40回「歴史を変える!? 生物学的アプローチでアンモニアを生産!」、東京工業大学東工大ニュース「藻類を使ったアンモニア生産の可能性―ラン藻の遺伝子発現を制御して放出させることに成功―」)。

問:人の体臭・口臭や足が臭いのには微生物が関わっているか?
答:体臭は汗や皮脂の臭いのほか、皮膚常在微生物がそれらを分解することで臭いが変わる、あるいは強まることがある(BoDEO 360ニオイ研究室体臭コラム「体臭の原因とは?10種類のニオイ別に原因と対策を分かりやすく解説」)。口臭は消化不良の食物の異常発酵、舌の上にたまる細菌(舌苔)、歯周病菌など微生物が関わっている(日本臨床歯周病学会 歯周病について「口臭について」)。足では常在菌が足の汗・皮脂・古い角質・垢を分解して、においの元ととなるイソ吉草酸や酢酸を生成する(FORZA STYLE BEAUTY「足が臭いのはなぜ!? 足が臭う原因と対処法6つを徹底紹介」 )。ちなみに、イソ吉草酸の臭いはブルーチーズや納豆の臭いに例えられ、悪臭防止法で規制基準が定められているほど強い。東京ドームの真ん中に一滴垂らしただけで、ドーム中がそのにおいで充満するくらい強烈なもので、足の微生物がわずかに生産しても周囲に広がる。これは1千億倍(12回も10倍希釈)というレベルの濃度(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 生物化学研究室「においの科学のウソ・ホント」)。

問:生きている人間が微生物に分解されないのはなぜか?
答:体表面は皮膚と常在菌で守られているため傷を放置する、あるいは風呂に入らず不潔にするなどしない限り病原菌や腐敗菌が人体を分解することはない(東京医療保健大学 ヘルスケアコラム「皮膚の常在細菌について」)。しかし、破傷風菌や炭疽菌、水虫菌などによる感染症を放置すると部分的に分解され、水虫菌以外の前2菌などが感染した場合、治療を怠ると死亡することもあり細胞の自己崩壊と相まって分解されてしまう。ただし、ワクチンの予防接種を受けて体力を保つことにより、体内に侵入した微生物は免疫システムにより撃退される。人間の免疫には腸内細菌が大きくかかわっている(NHKスペシャル「シリーズ人体」神秘の巨大ネットワーク 第4集「万病撃退!“腸”が免疫の鍵だった」)。

問:多くの型があるインフルエンザウイルスは毎年1つの型が流行するのか? ワクチンのブレンドに必要な予想はどのように立てるのか?
答:流行する型に波があり、主に次の3つの要素から予想を立てる。①地方衛生研究所と国立感染症研究所で行う国内ウイルス株の抗原分析および遺伝子解析の結果、②WHO世界保健機関でのワクチン推奨株検討会議の議論、③ワクチン接種後のヒト血清抗体の反応性の評価の手順を経て流行を予測する。例えば、2017-18年のシーズンは、A型株H1N1、 A型株H3N2(埼玉)、B型山形系統、B型ビクトリア系統の4型が予想され、これらをワクチン製造に利用した(国立感染症研究所、IASR、43、 252-255、 2022年11月号)。

問:植物の共生菌は菌根菌だけか? また、互いに利益を得る共存(共生)から寄生に変わることがあるか?
答:外生菌根菌は樹木類と、いわゆるAM菌根菌(内生菌根菌)は広く植物と共生しているが、それ以外にもラン類とTulasnella属菌やEpulorhiza属菌などのRhizoctonia属近縁菌類が共生している(岡山将也ほか、2008)。また、ウシノケグサ属およびドクムギ属植物にはエンドファイトとしてエピクロエ(Epichloë)属菌が内生していることがあるが、この菌は植物の生育を促進し、栄養素の獲得を助け、耐干性などの物理的ストレスの耐性を向上させる可能性があり、さらに病害抵抗性および虫や草食哺乳類の食害抵抗性にも貢献しており、共生的な真菌と言える(菅原幸哉、2011)。一方、寄生と共生の関係は境目がない場合があり、上記の例では同じ植物と共生菌の組み合わせでも菌の生殖期には共生関係から寄生関係(ガマの穂病、図1、2)になることもある。

図1.Epichloë typhinaが内生し、稈に白い子座が形成された(がまの穂病)ヤマカモジグサ、図2.図1の子座に形成されたE. typhinaの子のう果(褐色の粒).

問:ウイロイドは野生植物から見つかっているか?
答:トマト退緑萎縮ウイロイド(TCDVd)はワルナスビ等の雑草に感染する。また、無病徴だが、ジャガイモやせいもウイロイド(PSTVd)はイヌホウズキなど多くの野生植物から(花田薫、2021)、キク矮化ウイロイド(CSVd)はツルハナナスやツルニチニチソウ、マメ科雑草から検出されている(松下陽介、2020)。

問:弱毒ウイルスを接種した作物をそのまま繁殖して使うことはできるか?
答:弱毒ウイルスの接種によるワクチン効果(梁宝成ほか、2010)は接種した植物体一代限りで切れるが、増殖は可能であり、通常の作物として使用できる。ただし、その品種がF1雑種の場合はその世代の個体同士の授粉による採種では品質は保てない。

問:細菌や微生物の形はどうしてそれぞれ違うのか?
答:一つの理由は形が機能を表しているから(大型生物でも同じ)。単細胞の細菌は水溶液中の生活や短期間での大量繁殖・分散に適しており(図3)、菌糸状のカビは隙間に入り込みやすく広い体表面から酵素を分泌して有機物を分解し吸収する生活に適している(図4、5)。 

図3.ツルマメ由来の細菌、図4.根の表面の白絹病菌の菌糸、図5.根の組織内の菌糸.

問:虫に寄生する菌類 には人間に寄生するものなどはあるか?
答:冬虫夏草など昆虫寄生菌は生育最高温度が人間の体温より低いため、人間には寄生できない(北海道大学農学部遺伝繁殖学研究室「昆虫に病気を引き起こす菌類」)。

問:微生物が分解できないものはあるか?
答:プラスチックの可塑剤やレンズのコーティング剤を分解し利用する微生物もいる。最近、ペットボトルの素材であるPETを強力に分解できる微生物イデオネラ・サカイエンシス201-F6株も発見されている(ecotopia 環境問題「プラスチックを分解する微生物!サカイエンシスが発見される」)。金属は微生物による分解が難しそうだが、微生物採鉱(バクテリアリーチング)では鉄酸化細菌などが銅、鉄、ウランなどの鉱石から金属成分を酸化(イオン変換・分解)する能力が利用されている。また、ジェット戦闘機の燃料タンクにたまった水を利用し燃料を分解する真菌が金属を溶かし、燃料漏れを起こしたこともある(井上、1968)。このように、微生物が分解できないものはほとんどない。

問:コムギ黄さび病菌夏胞子は黄砂とともに日本に飛来するそうだが、胞子に寿命はあるのか?
答:もちろん寿命はあるが、コムギ黄さび病菌夏胞子は黄砂とともに上空約1万メートルの冷たい偏西風に乗ってくるため、エベレストの頂上並みに低温状態で運ばれ生きたまま日本に到達する。しかし、夏胞子は耐久胞子ではないため、地上に落ちた後は黄砂の季節の気温では数週間ももたないと考えられる。なお、コムギ黄さび病菌の夏胞子は真空乾燥後に液体窒素中(-196°C)で長期保存できる(John L. Cunningham、1973)。また、近縁のコムギ赤さび病菌の夏胞子は液体窒素気相中(-160℃前後)で30年以上存され、研究用に一般配布されている(農業生物資源ジーンバンク 微生物遺伝資源の詳細 MAFF 102013の詳細)。

問:最近金星で微生物が作るガスが発見されたが、金星に微生物はいると思うか?
答:金星で検出されたホスフィンは微生物が放出しているのではないか?と報告された(NATIONAL GEOGRAPHIC News「金星の大気中に生命が存在か、ホスフィンを検出」)。122°Cや1,000気圧など信じられない極限環境に耐える微生物が地球上にいるので(NHKサイエンスZERO「1億年生きた微生物も!?“極限環境生物”の生存戦略から『生命とは何か』を考える」)、金星にもそのような微生物がいるかもしれない。

問:年間で微生物はどれくらいの量の窒素を循環させているのか?
答:空中窒素は一部微生物の活動によりあるいは工業的に固定され、あらゆる生物の体を形作り、エネルギーとして利用され巡り巡ってまた大気中に戻る(窒素循環)。窒素固定能力を持つ微生物はバクテリア(窒素固定菌)かアーキア(メタン菌)といった原核生物であり、真核生物では知られていない。2010年時点の地球上の窒素の年間循環量(≒固定量)は3.8億tで、微生物による窒素固定は1.8億t(陸上46%、海洋54%)で、雷等の自然放電による生成と排気ガスのNOxで0.4億tと言われている。また、ハーバー・ボッシュ法による工業的窒素固定は1.6億t(そのうち8割が肥料用)であり、微生物と工業による固定量はほぼ同等と言える(Wikipedia「窒素循環」)。

問:寄生や共生において宿主・寄生者がお互いに不利益を被る例はあるのか?
答:互いに不利益になる関係は共生とは言えない。一方、宿主・寄生者の関係では、17世紀末にアイルランドで疫病菌によりジャガイモがほぼ全滅し、疫病菌の密度も著しく低下した(図6、7)。農業では強力な病原菌は宿主作物を滅ぼしてしまう可能性が高く、自滅するリスクを持っている(日本植物病理学会,2019)。

図6.病斑上に形成されたジャガイモ疫病菌の遊走子のう柄・遊走子のう、図7.枝分かれした遊走子のう柄と卵形の遊走子のう.

問:スパランツァーニとパスツールの実験により自然発生説が否定されたのか? 両者は同じ実験をしたのか?
答:スパランツァーニは2つのフラスコに入った肉汁を煮沸し、片方のフラスコの口を溶封して密閉した結果、口の開いたフラスコの肉汁のみ腐ることを示し通気しなければ微生物が入らず増殖しないことを証明した。しかし、新鮮な空気の出入が肉汁を腐らせる可能性を否定できなかった。それに対し、パスツールは、新鮮な空気が出入りしかつ微生物の入らない工夫をした白鳥の首のフラスコでは肉汁が腐らないのに対し、白鳥の首の部分を切り取ったフラスコでは肉汁が腐ったことから、空気が入っても微生物が入らなければその増殖がないことを証明した(生物王への道 パスツールによるアリストテレスの自然発生説の否定 ニーダムとスパァランツァーニの論争 「スパランツァーニの実験」)。

問:すべての細胞小器官が細胞内共生によりつくられたのか?
答:細胞内共生説(Study-Z.net「細胞内共生説」とは?現役講師がわかりやすく解説)では、細胞小器官のうち、ミトコンドリア(酸素呼吸能のある細菌)、葉緑体(シアノバクテリアの祖先)が細胞本体以外の生物に由来するとされている。さらに、中心体はスピロヘータの共生部分から発達し、べん毛は表面共生していたスピロヘータに由来すると主張されたが、べん毛とスピロヘータの構造が異なることから後者の関係は信ぴょう性が低いとされている。

問:なぜ根粒菌の共生はマメ科植物だけなのか?
答:根粒菌の遺伝子の中にマメ科の植物ホルモンの一つエチレンの働きを弱める遺伝子があり、この遺伝子がこぶを作りやすくする。また、根粒菌を受け入れるマメ科植物の遺伝子セットがあり根粒形成に必要であることから、豆類と根粒菌は共生関係を共進化により獲得したと考えられるから(東北大学総合学術博物館のすべてⅨ 土と助け合う生物「どうしてマメ科植物だけが根粒菌と共生するのか?」)。

問:ミトコンドリアが細胞本体以外の好気性細菌に由来する決定的な証拠は何か?細胞内共生ではなく、細胞自身がその細菌を食べた後、残ったDNAを利用し生成した可能性はあるか?
答:ミトコンドリアが独自にDNA(mtDNA)を持っていること、mtDNAにコードされているリボソームRNAの配列を使った系統解析の結果、ミトコンドリアは現在のαプロテオバクテリアが起源であることが示されたこと、半自律的に分裂・増殖していること、さらに二重膜を持っていることが決定的証拠である。 宿主細胞が捕食した細菌のDNAだけ分解しないことは考えにくいし、もし分解されずに残ったDNAを利用して再生したとしたら「ミトコンドリアもどき」は一重膜のはず(Study-Z.net「細胞内共生説」とは?現役講師がわかりやすく解説)。

問:食品製造用微生物はどのように食品の安全性を確保しているのか?
答:現在は無菌的な条件で食品製造用微生物を利用して食品の安全性を確保している。開放系で行われてきた伝統的な醸造や発酵食品の製法では、例えば味噌・醤油の発酵微生物は高い塩濃度耐性を持ち雑菌が寄り付けない条件で働き、納豆菌や乳酸菌などは腐敗菌や雑菌を寄せ付けない能力を持つものが多い。また、清酒の伝統的醸造では、乳酸菌の働きにより野生酵母や雑細菌が排除されることが分かっている。清酒製造で米のデンプンを糖化するこうじ菌(Aspergillus oryzae:図8, 9)は長い年月をかけて強烈なカビ毒を生産する種(Aspergillus flavus)から育種(家畜化)され安全性が確立されたが、カビ毒を生産する一部系統でも毒性をやわらげる遺伝子を持つことが明らかにされた(加藤直樹ほか、2014)。

図8.籾(上)と玄米(下)から分離されたこうじ菌の野生株、図9.醸造用こうじ菌の菌株.

問:微生物を利用した環境問題の解決策にはどのようなものがあるか?
答:微生物を利用した環境汚染などの解決法(バイオレメディエーション)には、汚染した土壌・水圏に窒素,リン等の無機栄養塩類,メタン,堆肥等の微生物の増殖に必要なエネルギー源(有機物)や空気などを導入し、現場に生息している微生物を増殖させて浄化活性を高めるバイオスティミュレーションと、汚染現場に浄化微生物が生息していない場合、他で培養した微生物を導入して浄化するバイオオーグメンテーションがある。前者の例としては、1989年アラスカで起きた原油タンカーの事故に対し,海岸に微生物を活性化させるため大量の栄養物が散布され、その有効性が確認された(国立環境研究所、1999、 「バイオレメディエーション」、国環研ニュース、18)。バイオオーグメンテーションの実用例はまだないと思われるが、石油分解細菌Acinetobacter属菌、Pseudomonas属菌、Rhodococcus属菌(放線菌)、石油分解菌類(酵母)Candida属菌、Rhodotorula属菌の利用が研究されている(製品評価技術基盤機構nite バイオテクノロジー「どんな微生物が石油を分解するか?」)。また、テトラクロロエチレン・トリクロロエチレンなど有機塩素化合物をDehalococcoides属細菌(惣田訓、2019)やダイオキシンを分解する可能性の高いウスキイロカワタケが(環境省 環境大臣確認文書)、それぞれの難分解性環境汚染物質の分解微生物として実用化に向けた検討が行われている。

文献

花田薫.2021.世界最小の植物病原であるウイロイドの特性と保存法.微生物遺伝資源利用マニュアル(44),1-33.
井上真由美.1968.ジェット燃料中の微生物によるアルミニウムの腐食について.日本航空学会誌,16(175),271-279.
加藤直樹・徳岡昌文・篠原靖智・小山泰二・長田裕之.2014.麹菌においてマイコトキシン生産を防ぐセーフガードとシクロピアゾン酸生合成機構.JSM Mycotoxins,64(2),197-206.
John L. Cunningham, 1973. Preservation of rust fungi in liquid nitrogen. Cryobiology, 10(5), 361-363.
梁宝成・片桐伸行・安原壽雄・小坂能尚.2010.植物ウイルス病ワクチンの製品化と普及展開.植物防疫,64(12),822-825.
松下陽介.2020.キク矮化ウイロイド Chrysanthemum stunt viroid.微生物遺伝資源利用マニュアル(43),1-3.
日本植物病理学会.2019.植物たちの戦争 ―病原体との5億年サバイバルレース-.pp. 190–191.講談社,東京.
岡山 将也, 谷亀 高広, 大和 政秀, 岩瀬 剛二.2008.野生ラン科植物シュンランおよびネジバナの菌根菌の多様性.日本菌学会大会講演要旨集/日本菌学会第52回大会.
惣田訓、2019.生物学的環境修復技術におけるダイオキシン類の分解と代謝.廃棄物資源循環学会誌,30(3).194-200.
菅原幸哉.2011.エンドファイトの農業利用の現状と将来展望.Mycotoxins.61(1),25-30.