強害雑草ギシギシの病原菌を利用する試み -Teratoramularia属菌-

 うどんこ病菌利用の検討中、別件で小笠原諸島に出張する機会があり、たまたま母島で葉が赤斑と白いカビに覆われたギシギシを発見し持ち帰ることができました(図1, 2)。また、旧四国農試の周辺でもよく似た病斑のある葉を採集し、両方から病原菌と思われる菌株を分離し、母島産菌株をGR1、四国産菌株をOL9と名付けました。それらは形態や培養性状などから当時Ramularia pratensisと同定しました(最近、GR1はリボソームRNA遺伝子ITS領域の塩基配列からTeratoramularia rumicicolaT. rumicisであることが分かりました)。次に、四国産菌株OL9と母島産菌株GR1の寒天培地上に形成された分生子をガラス室で接種しました。その結果、病徴の出現はGR1よりOL9接種個体の方が早かったのですが、その後の病斑拡大と葉枯れはGR1接種個体の方が早く、GR1はOL9よりもギシギシに対する親和性と病原性が高いことが分かりました(図3)。この菌は寒天培地の上では生育がとても遅いのですが、大量に分生子を形成します。そこで、有望なGR1を0.5%イーストエキス・麦芽エキス液体培地(YM)で25℃7日間振とう培養したところ、酵母状によく増え、試験散布に十分な量の細胞が得られました。培養細胞の長期保存が可能か調べるため、YM培養ろ液、10%グリセリンあるいは1.5%グルタミン酸ナトリウム添加10%スキムミルクで108個/mlに希釈して-80℃で凍結保存しました。1か月後に解凍したところ、どの分散媒でも生残率は低下しておらず、解凍細胞を105個/mlに希釈してギシギシに接種した結果、凍結前と同様の病原性が確認されました。さらに、10月下旬、この培養細胞を同じ希釈密度で野外のギシギシに接種した結果、約1か月後に葉枯れが始まり、明らかに生育にマイナスの影響が見られました(図4)。この一連の実験で以下のことが考えられました。
●一般に遠隔地で採集された寄生菌を利用すると、宿主がそれに適応しておらず高い病原性が発揮され除草効果が期待できると言われるが、今回も小笠原諸島母島で採集された菌が有力候補と認められた。ただし、利用には宿主範囲の調査が必要。
●うどんこ病菌など絶対寄生菌は一般に宿主特異性や感染力が高く安全性と省力の観点から有利だが、人工増殖できず、土着種では劇的な除草効果は得られない。
●土着の寄生菌は宿主と共存している、つまり、寄生菌に弱い宿主の系統が淘汰されて耐病性の高い系統が生き残っているため、微生物除草剤としての効果はあまり期待できないと考えられる。
●ミツバチなど他の生物を除草用微生物の運び屋として利用する場合、その生物が有効に活動できる条件が整っていないと分散は困難。
ところで、このギシギシの微生物除草剤の開発研究は、筆者が異動になり中断したままになっています。菌株GR1は農業生物資源ジーンバンクからMAFF 238946として公開されています。どなたか実用化研究を引き継いで頂けることを期待しています。

図.ギシギシの病原菌とその除草効果,1:母島で採集した罹病葉,2:Teratoramularia属病原菌の分生子と分生子柄,3:接種13日後の発病葉,4:野外接種35日後のギシギシ個体