耕種的防除(その1)

 耕種的防除とは、勢いのある元気な作物(素因)を育てて抵抗力を高め、同時に病原体(主因)を排除し、あるいはその密度と侵害力を減ずるような生育環境(誘因)を作り出すための栽培管理技術のことをいます。具体的には、輪作、適地適作、あるいはその地域に合った作型で栽培する、十分な光と風通しの良い適切な栽植密度で栽培する、水はけ良くする、土壌酸度(pH)を適正に整える、防風するなどの栽培環境の最適化や罹病植物の適切な処理などの圃場衛生管理といった病害全般に対する栽培管理技術をべースにして、病害虫に強い品種を使う、接ぎ木する、対抗作物を作付ける、特定の作物と混作するなど、ある程度対象病害を想定したスポット技術など多様な手法があります。これら個々の技術の病害防除効果はいずれも小さく、不安定ではありますが、それらを組み合わせて、積み上げていくと「栽培管理の総合技術」として相応の病害防除力が発揮され、作物群落全体としての病害の発生レベルを低く抑えることができます。
 ここでは、多様な耕種的防除技術のうち、まず、ベースとなる耕種的防除法について解説した後、野菜栽培を事例にして、連作を前提とする施設栽培や作型を変更できない指定野菜産地制度の下での栽培など、経営的制約のある中での耕種的防除法について2回に分けて説明したいと思います。

1.ベースとなる耕種的防除法

(1)輪作
 輪作とは、同じ耕地に異なる科・属・種の作物を一定の組合せで順番に栽培することを言います。輪作すれば作付けごとに作物の種類が変わりますから、前作の作物に寄生して病気を引き起こしていた病原菌は、栄養源がなくなるので死に絶えてしまいます。輪作サイクルは、病原菌の種類によって耐久性が異なるので一定しませんが、3~5年程度が一般的です。たとえば、北海道のタマネギ産地では、タマネギ紅色根腐病対策として、ムギ類、テンサイおよび緑肥作物のヒマワリまたはエンバクを組み込んだ輪作体系が採用されています。
 一方、経営的に短期輪作を採用せざるを得ない場合にも、作付けする作物の種類によっては短期輪作によって効果的な防除ができる場合があります。たとえばアブラナ科根こぶ病対策では、ダイコンを前作で作付けするだけで土壌中の根こぶ病菌の密度が顕著に低下します。これは根こぶ病菌の休眠胞子が、ダイコン(品種にかかわらず根こぶ病に抵抗性)が作付けされることによって発芽誘導され、根毛に感染するも増殖できずに死んでしまうため、その密度が低下する、という仕組みによります。同様に、ナス半身萎凋病では、ナスの後作で秋冬ブロッコリーを栽培すると、ブロッコリーでは半身萎凋病菌が微小菌核を形成できないので土壌中の菌密度が減少する、という仕組みによります。
 ブロッコリーやカラシナなどのアブラナ科作物は、植物体が破砕されるとイソチオシアネートなどの抗菌・静菌活性を有する二次代謝産物が生成します。したがって、ブロッコリーやカラシナなどを輪作体系に組み込むと、その作付け後の残渣処理を通して土壌病原菌の増殖を抑制することができます。この手法は、わが国だけでなく世界的にも多くの取組み事例があり、バイオフミゲーション(biofumigation)と呼ばれています。

(2)作型選択
 作型とは、作付け可能な気象・土壌条件の下で、適切な品種を選択し、防寒防暑、被覆、かん水、施肥、病害虫防除など個別の栽培管理技術を取捨選択して作り上げられた栽培技術体系のことを言います(熊沢三郎:蔬菜園芸各論(1956))。一般に、作物ごとの作型分化の過程では、発病の3要素のうち、病原菌(主因)の密度やマイナスの生育環境(誘因)をできる限り小さくする方向で作付け時期が選択されます。たとえば、ダイコンの秋冬作型では、気温が下がりキュウリモザイクウイルスやカブモザイクウイルスなどを保毒した有翅アブラムシ類の密度が低下するのを待って播種すると、モザイク病の発生を効果的に回避できます。同じようなことが北海道のダイズ栽培での矮化病の回避にも適用されています。一方、作型を早めることによって発病を抑制する事例もあります。たとえば、野菜類では、早めに播種し、生育初期にトンネルや簡易ビニルハウスなどを用いて保温して栽培する早熟作型があります。この作型だと作物の生育が早まって、草勢が強くなるとともに、被覆による雨よけ効果でベと病や疫病等の発生をかなり回避することができます。
 作型選択には、その地域の気候の特徴を知っておくことが大切です。農業気象をきちんと理解することの大切さは、このホームページの鳥谷先生のコーナーで具体的に解説されている通りですが、ここで日本の気候について基本に立ち返って考えてみたいと思います。図1に明確な四季のある日本の気温と日長の年変化を、横浜(緯度35.45°、経度139.65°、標高0m)を事例に示しました。横軸は月,縦軸の左側は気温(黒線)、右側は日長(赤線)です。この図からわかることは,①気温の一番高い時期と低い時期は、日長の一番長い夏至と短い冬至からいずれもおよそ45日遅れてくること、②早春から初夏までは強日射・中低温、晩夏から初冬までは寡日照・高中温条件にあること、の2点です。同じ12時間日長の春分と秋分の日の平均気温差が11.6℃もあることからもこの2つの特徴がよく理解できると思います。

図1.我が国における気温と日長の年変化.
横浜気象台(緯度:35.45° 経度:139.65° 標高: 0.0 m)の
1991~2020年の平年値データから作図.

 そこで、この気象変化を理解したうえで、トマト栽培を事例に耕種的防除を考えてみましょう。早春から夏まで栽培する春夏作では、強日射・中低温(+比較的低湿度)条件というトマトの原産地であるアンデス高地の気候が再現されるため、苗を植え付けた後は日射が日に日に強くなる中で植物体が成長していくことになります。そのため、トマトは旺盛に生育し、充実した花芽をつけ,安定して着果し、よく肥大します。一方、高温・高湿を好む病原菌類にとってはこの時期の気象条件はとても厳しく、旺盛に生育する植物体の抵抗力も高いので、なかなか侵害することができません。これに対して盛夏期以降に生育が本格化する抑制作型では,定植時は高温・高湿で植物体は消耗,これから成長しようという時期には日射量は日に日に少なくなっていきます。一方、病原菌には最適環境というわけですから,この抑制作型でのトマトの栽培管理は、耕種的防除だけでは大変難しいものになります。
 このように、端境期や病害虫が発生しやすい時期の栽培を避け、作物が元気よく伸び伸びと育つ作型を選択することは、最も合理的な耕種的防除法ということができます。ただし、実際の農業経営では、収益性という点から最適作型で栽培できないケースが多いのも事実です。これをカバーするために必要な耕種的防除技術が栽培環境の最適化です。

(3)栽培環境の最適化
 病害が発生しやすいあるいは拡大しやすい栽培環境の代表的な例は日照不足、高温高湿、土壌の過乾湿などいろいろあります(表1)。こういった不良環境をヒトの手で改変・制御し、作物の生育に最適な環境に改変するのも大変有効な耕種的防除手法です。

表1.病害が発生・拡大しやすい環境条件.

1)栽培管理
 果樹や果菜類の栽培で一般的に行われる整枝は、作物群落の光環境や通風をよくし、病原菌が好む多湿環境を改善するうえで大変有効な栽培管理作業です。また、マルチや敷きわらは、降雨に伴う土のはね上がりを防止し、トンネル栽培や雨よけ栽培は降雨そのものから植物体を守るので、水媒伝染性の疫病やべと病あるいは多くの細菌性病害などの発生を効果的に抑制することができます。被覆資材によるべたがけ栽培は、冬作でキャベツや軟弱野菜類の凍寒害を軽減し、付随して発生する腐敗病や黒斑細菌病などの発病を抑制することができます。また、IT化が進む施設栽培では、早朝換気などによる的確な湿度管理手法の導入が進んでおり、高湿度環境下で多発する灰色かび病等の効果的な防除につながっています。

2)栽植密度
 最大収量を得るための栽植密度での栽培は、作物の生育環境的には強いストレスがかかることが多く、病原菌の攻撃に対する抵抗力が低下し、発病しやすくなります。秋田県立大学の古屋名誉教授はフィールド・ドクター第30号(p.12)で、「栽植密度に余裕をもたせると病害発生のリスクが低下する」と述べておられます。費用対効果という経営的視点から、病害の発生リスクを回避しながら最大収益が得られる栽植密度を設定することは大変重要です(本ブログの第1話をご参照ください)。また、効率的で省力的な作業動線を確保しつつ、十分な光条件、通風条件となるような栽植密度を圃場、作物・作期ごとに個別に設定することも大切です。

3)肥培管理
 適正な施肥はもとより、土づくりのための有機物施用あるいは土壌酸度(pH)の矯正などは、元気な作物を栽培するための基本です。たとえばイネいもち病やウリ類うどんこ病等の多くの地上部病害では、窒素過多になると軟弱徒長し、結果として発病が助長されます。一方、イネごま葉枯病やウリ類べと病などでは窒素不足だと、逆に発病が助長されるというケースもあるので、土壌分析に基づいた適切な施肥管理は大変重要です。
 有機物も大変重要です。家畜ふん堆肥などの有機物を施用すると、土壌の団粒構造、通気性、保水性などの物理性が向上し、それに伴って土の中に住む微生物の活動が活発になるため、一般に土壌病害に対する抑止力が高まります。ただし、施用する有機物の種類や量、対象作物と病害の組合せ等によって発病抑制効果が異なりますので、時間をかけて経験を積み、自分の圃場に合った有機物の使い方を会得してください。
 土壌酸度(pH)については、pH5以下の酸性だとアブラナ科根こぶ病や果樹類の白紋羽病等の発生が助長されます。逆にpH7以上のアルカリ性だとトマト青枯病やジャガイモそうか病などの植物病原細菌による土壌病害の発生が助長されます。土壌酸度の矯正が病害防除に有効な事例として、根深ネギに発生する黒腐菌核病の苦土石灰の施用による防除があります。ネギの土寄せ時に苦土石灰を施用して土壌pHを7~7.5に上げると黒腐菌核病の被害を効果的に軽減できるという技術です(伊代住・斎藤、2019)。なお、土壌酸度矯正のために石灰資材を用いる場合、目標pHにするのに必要な石灰資材の量は、土の種類によりますが、想像以上に多いことにご注意ください。具体的な対処方法の事例を表2に示しましたので参考にしてください(北、2008)。なお、皆さんの住んでおられる地域における施肥基準等については農水省のサイト(都道府県施肥基準等)を参照してください。

表2.土壌の種類とpH別の土壌pHをpH6.5に矯正するために必要な苦土石灰の施用量

(4)圃場衛生管理・その他
 圃場衛生管理の基本は、病原菌類を圃場に持ち込まないこと、増やさないこと、罹病残渣を適切に処分すること、の三つです。このうち特に重要なのは、病原菌類を圃場に持ち込まないことです。健全な無病苗を用いるのは当然として、耕耘後のトラクターのタイヤやロータリーなどの作業機に付着した土を丁寧に落としたうえでしっかり水洗浄する、前作で病原菌に汚染された可能性のある支柱や被覆資材などは次亜塩素酸ソーダあるいは太陽熱処理などによってきちんと消毒してから再利用すること、などはよくよく承知されているとは思いますが、作業の都合でついおろそかになりがちです。改めて余裕のある農作業スケジュールの確保を心がけてください。
 その他の有名な事例に「ナシ赤星病の防除での中間寄主の除去」があります。ナシ赤星病の防除では、赤星病菌の伝染環の中で中間寄主となっているビャクシン類をナシ園周辺から除去する、栽植しないということ手法です。実際、国内のナシの産地・樹園地では、どこでも一般市民の協力も得て、ビャクシン類を地域ぐるみで栽植しない取り組みなどが行われています。
 この他、イネ縞葉枯病や野菜類・花き類で発生するモザイク病などの昆虫媒介性のウイルス病では、ウイルスを保毒した媒介昆虫の自然界での生息場所をなくすために、圃場周辺の除草を徹底することは日常的に対応すべき基本的な病害予防対策です。また、栽培中に発生した罹病植物や罹病せん定枝などは速やかに持ち出し、埋設処理するのは基本です。このように面倒くさくてもこまめな対応の積み重ねが病気の大発生を抑えるコツとなります。

【参考文献】
眞山滋之・土佐幸雄編(2021):植物病理学(第2版).文永堂出版.p.173-179.
伊代住浩幸・斎藤千温(2019):ネギ黒腐菌核病の発生実態と防除対策上の課題.植物防疫 73(1):16-19.
農林水産省農産局農産政策部技術普及課生産資材対策室:都道府県施肥基準等
北宜裕(2008):連作障害に負けない野菜作り.第2回「土づくり」.はなとやさい(タキイ種苗)p.35-36.