病害虫防除のそもそも論で解説したように、作物を栽培する上で常に付きまとう病害発生のリスクを最小限にするためには、主因の制御、すなわち病原体を持ち込まない、増やさない、拡散させない、という予防対策が基本となります。そのための技術にはさまざまな種類がありますが、図1に示すように化学的防除、物理的防除、生物的防除、そして耕種的防除、の大きく4種類に分けることができます。
実際の経済栽培では、病気が発生してしまった場合、あるいは発生が予想される場合には、主因となる病原体を排除して収量を確保するのが一般的な対処方法です。そのための直接的な手法が化学農薬を利用する化学的防除です。また、熱や光、静電場などを利用して病原体の密度を減らす物理的防除も直接的な防除技術なので直感的に理解できると思います。一方、拮抗微生物や天敵等を利用する生物的防除や耕種的防除は、農業分野特有の技術で、間接的な手法ではありますが環境には大変やさしく、持続性のある技術です。とくに耕種的防除は、人類が農耕を始めたときから営々と積み重ねてきた小さな技術、畝を立てる、風よけする、かん水する、輪作する、などの作物栽培の長い経験の積み重ねを通して、栽培環境を整え、作物を病原体から間接的に守る「ローリスク、ローリターンの積み重ね技術」です。国連では持続的成長に向けた取組み目標(SDGs)の達成に向けた取組みが強力に推し進められていますが、耕種的防除だけでは80億に迫る人類は養えないことは明白です。
そこで、現在の経済栽培では、化学的防除技術を核としつつ、これら4種類の防除技術を矛盾しないように合理的に組み合わせた、環境にやさしい総合的な防除手法である「総合的病害虫管理(Integrated Pest Management、IPM)」に期待が集まっています(図1の中央の重なり部分)。また、IPMは持続的な農業生産と環境保全の両立を目指す環境保全型農業のキーテクノロジーとしても位置付けられています。この環境保全型農業が目指すところは、地球の物質循環系の再生力・回復力を損なわない範囲で上手に利用して、永続的な農業生産に取り組んで行くことです。
さて、第3話以降は、4つの個別技術の中から注目しておいていただきたい技術をいくつかピックアップして説明していきたいと思います。
【参考文献】
「植物病理学(第2版)」p.156-159.眞山滋之・土佐幸雄編.文永堂出版.2021年.
図.化学・生物・物理・耕種的防除法と総合的病害虫管理(IPM)の特長と相互関係.