光合成産物の動態解明の意義とその測定法(その1)

1)光合成産物の動態解明の意義
 光合成産物が作物体内でどのように移動(転流)しているのかを明らかにするということは、作物の最適な栽培管理法を見つけることにつながると同時に、科学的に未知の世界を明らかにするという点で大きな意義があると考えて、これに取り組んできました。ここでは、研究の性格上、難しい専門用語がたくさん出てきますが、その都度、用語の解説をしながら、光合成についてわかりやすくお話ししますので、光合成や作物栽培に興味のある方には、ぜひ、読んでいただきたいと思います。
 まず、野菜の生産性について議論する際には、野菜と稲・麦では生態的特長が違うことを意識する必要があります。稲などの子実生産では、生産対象が1つの葉に対して1つの穂という関係、いわゆる1つのソース(光合成産物を生産するところ)と1つのシンク(光合成産物を蓄積するところ)の関係が成り立つ系と考えることができます。ある意味では,光合成量イコール生産量です。
 一方、野菜のなかでも果菜類では、新葉の伸長と、果実の生産および花芽の分化、いわゆる、栄養成長と生殖成長が同時に多層多段階で繰り広げられており,ソースとシンクとの関係は単純ではありません。たとえば、ソースが光合成産物を生産している過程での果実の収穫や葉の摘葉などは、ソースとシンクとの関係を変化させ、これに対応して作物側の反応も変化します。種々の栽培操作や生育段階による作物側の反応が、その収量すなわち生産性に大きな影響を及ぼしているのです。
 このように、ソースとシンクとの関係は作物の生産に大きな影響を与えますが、野菜栽培においてこれは単純な系ではないので、栽培環境や栽培法によっては必ずしも最良の収量と効率的な果実生産になっていません。野菜栽培ではこの点に留意する必要があります。
 以上のことから、繰り返しになりますが、光合成産物の動態、すなわち光合成産物がどのように転流し、どのように分配されるかを知ることは、最適な栽培管理を行うためにとても重要なのです。具体的には、野菜の生産性を維持するために、光合成産物が果実だけに分配されるだけでよいのか、将来、果実になる花芽の分化や将来の果実生産を担う新葉の生産をどのように維持したらよいのか、分配される光合成産物の生産をどの葉が担うのか等々、いろいろな視点から解析することが、栄養成長と生殖成長を周期的に繰り返す野菜の生産性をあげる鍵になると考えて、私たちは研究を進めました。
 ここでは,私たちが光合成産物の転流及び分配に関して得たデータを、実際の栽培条件に出来るだけ対応させて紹介します。すべてのケースを解析し尽くしたとはいえないのですが、得られた知見が実際の栽培を支える技術の礎となることを期待します。