光合成産物の転流と分配とは

 わたしがもっとも力を入れて取り組んできた光合成産物の転流と分配についてお話します。
 光合成は太陽のエネルギーを使って、水と炭酸ガスを植物の葉に取り込んで糖を作り出す現象です。この光合成された糖が果実や種に蓄積されます。生き物はそれを食べて生きているのですが、その糖がどのようにして移動して蓄積しているのかを調べる研究に取り組みました。それを調べることによって、効率的に収量を上げる栽培法を作り出すための研究です。

1)14C(放射性炭素)で糖の移動を調べる。
 光合成によって作られる糖の移動を調べるために、わたしは、14C(放射性炭素)を使って葉で光合成させて、出来た糖が移動して、どこに蓄積されているかをガイガーカウンターのような機械で測定する方法を使いました。この方法は、放射性物質を使用出来る隔離された実験施設が必要です。そのため、放射性物質を使って実験する人が非常に少ないことから、現役時代30年間と定年後20年間を通じて取り組んできたわけですが、現存しているのは私1人だけになってしまいました。しかし、そんな実験から色々なことが判ってきました。
 数年前から佐賀県に新しい後継者ができて、学位取得して今活躍中です。

2)植物は血管を持っている。
 植物は人間と同じように血管を持っているのです。水を通す血管と糖を通す血管が体中に行き渡っているのです。葉っぱを見ると葉脈が見えますが、それが2本並んで駆け巡っているのです。そして、その活動は昼の太陽が出ている間に活発です。一方、夜になると活動は低下して、人間で言えば寝ているのです。考えてみれば植物だって寝たり起きたりすると考えるのはおかしなことではないと思いました。目からうろこでした。それから、晴れたり、温度が高いと活動が高まり、多くの糖分が移動して、果実などの育ち方が速まることが判りました。植物は動くことが出来ないので育っている環境条件に反応しながら生きているのです。

3)葉っぱ一枚一枚の役割が異なる。
 また、植物の一枚一枚の葉っぱは役割が異なっていることが判りました。まず、葉っぱは生まれてから大きくなって、成長がストップして、働けなくなって、枯れて行くという一生をたどります。そして、それらの葉っぱは主に果実を育てる葉っぱ、少し育てる葉っぱ、果実と関係ない根や茎を育てる葉っぱとそれぞれ役割が違っていることが判ってきました。その当時は大発見でした。次々と新しい発見の続きで、あっという間の研究生活でした。

 次回から、少し詳しく、糖の移動などについてお話したいと思います。