光合成産物の動態解明の意義と測定法(その3)

3.光合成産物の転流・分配の測定法(実践)
(1)測定にあたって(問題提起) 
 前回は、¹⁴Cラジオアイソトープを用いたトレーサー法という、光合成産物の動態を明らかにするための基本的な考え方を紹介しました。ここでは、そのトレーサー法を実際の実験でどのように用いるのか、とくに¹⁴CO₂の施与方法や施与時刻の違いが、光合成産物の転流・分配の解釈にどのような影響を与えるのかについて解説しましょう。

 まず、光合成産物の転流と分配のパターンを明らかにする14CO2の施与方法を検討しました。この施与方法には、パルス・フィーディング法とステディ・ステート・フィーディング法があります。このうち、パルス・フィーディング法とは、一定の時間14CO2を施与して吸収させ、その後の光合成産物の転流と分配を追跡する方法です。この手法の長所は、簡単な密閉チャンバーを用い、そこに一定量のNa214CO3に酸を滴下して14CO2を発生させるので、簡易な装置で、同一時刻内に多数のサンプルを処理できる点です。
 しかし、パルス・フィーディング法では、14CO2を施与する時間は1日の光合成時間の10~25%前後に限られます。そのため、この短時間に同化された14C光合成産物がその日の光合成産物全体を代表するものとして見なして良いのか、という問題が生じます。すなわち、光合成産物の転流および分配は、いつから開始され、いつ停止するのかによって、光合成後の環境要因に対する反応が異なる可能性があるのです。そこで、パルス・フィーディング法を用いる場合には、14CO2を施与する時刻(¹⁴CO₂の同化を開始する時刻)毎に光合成産物の動向を解析して検証することが必要になります。
 さらに、¹⁴CO₂を施与する時刻の問題と同様に、どの葉を対象として光合成産物の転流を調べるかも、実験結果の解釈に大きく関わる重要な点となります。植物体には数枚から数十枚の葉が存在し、それぞれの葉は、生育段階や老若、光環境の違いにより光合成能力や光合成産物の転流特性が異なっています。また、各葉が担うソース・シンク関係も一様ではありません。そのため、ある一枚の葉が植物体全体の光合成産物の代表として良いのか、あるいは複数の葉、もしくは全ての葉を対象にする方がよいのかを考えなくてはなりません。

 これらの問題に対し、著者らは、まず単葉を用いた実験系を採用することが有効であると考えました。単葉を対象とすることで、葉の環境応答やソースとシンクの関係をより単純な反応系として捉えることができ、複数の葉や全葉を用いる場合に比べて、反応の感受性が高くなると考えたためです。
 また、ソース葉を1枚に限定し、そこから複数のシンク器官への転流を解析することで、各葉が果たす役割をより明確に評価できると考えました。
 さらに、ソース葉の位置を変えて同様の解析を行うことで、植物体全体のソースとシンクの関係を段階的に理解することも可能になります。
 これらの考えに基づき、パルス・フィーデイング法における14CO2の施与時刻にも着目し、光合成後の光合成産物の動態を、時間経過に沿って解析することとしました。

(2)測定方法
 ここでは、トマトの苗を用いて、光合成産物の転流と分配の動態を調べることにします。トマトは播種後、本葉が6~7枚展開した時期に15 cmポットへ植え替え、昼温24°C(9:00~17:00)、夜温17°C(17:00~翌9:00、暗黒)に設定した環境制御型の育成室(人工気象室)の中で育てます。
 光合成産物の転流は、¹⁴Cラジオアイソトープを用いたパルス・フィーディング法で追跡します。ここで比放射能となる¹⁴CO₂は、1枚の葉だけを覆う透明なチャンバーの中にある小さな容器にNa₂¹⁴CO₃溶液を入れ、これに酸を滴下することで発生させました。なおNa₂¹⁴CO₃溶液は、発生した¹⁴CO₂が一定の比放射能となるよう調製されています。これは、測定期間中、¹⁴Cの濃さを一定にし、光合成産物の転流量を比較可能にするためです。なお、発生させた¹⁴CO₂量は、チャンバー内の二酸化炭素濃度を大きく変化させない範囲としました。
 このように発生した¹⁴CO₂を、葉(第3葉)に施与します。対象葉は、葉柄部でポリエチレンフィルムを用いて覆い、チャンバー内と接続させることで、¹⁴CO₂が施与葉のみに供給されるようにしました。¹⁴CO₂の施与時間は約30分とし、その間、自然光または人工光下で光合成を行わせました。
 ¹⁴CO₂の施与は、1日の異なる時刻に行いました。施与時刻は9:00、13:00、および17:00とし、いずれの時刻においても同一の操作条件で実験を行いました。ここでいう施与時刻とは、¹⁴CO₂の同化を開始した時刻を指します。
 ¹⁴CO₂施与後、所定の時間が経過した後に植物体をサンプリングし、施与葉、茎、根、および上位部位など各器官に含まれる¹⁴Cの放射能を測定することで、光合成産物の分布を明らかにしました。ここでは、サンプリングは、施与後4時間、8時間、16時間、および翌日の9時に行い、各処理につき3個体を用いました(Hori, and Shishido, 1977)。

(3)測定結果
 まず、時刻別に¹⁴CO₂を施与した場合の光合成産物の転流率及び分配パターンを見ると、光合成産物の分配パターンは、施与時刻や転流率の大小にかかわらず、大きな変化を示しません。
 9:00に¹⁴CO₂を施与した場合、施与された葉(ソース葉)よりも下位の葉、茎および根への分配パターンは、時間が経過してもその差は認められません。また、ソース葉より上位部分への分配パターンについても、施与後の時間経過に伴う分配パターンは変化が認められません。17:00に施与した場合においても同様で、施与時刻によらず分配パターンはほぼ一定でした。
 一方、転流率は施与時刻によって明確な違いがありました。9:00に施与した区では、施与4時間後で光合成産物の転流率は23%でしたが、24時間後では35%に増加しました。13:00施与区では、施与4時間後で20%で、暗黒4時間後(施与8時間後)もその転流率は同じでしたが、翌日の9:00には42%に達しました。これに対して、17:00に施与した区では、施与直後から光合成をさせず暗黒下においたところ、4時間後に転流率は40%に達し、翌日の9:00に43%まで増加しました。
 これらの結果は、光合成産物の分配パターンは大きく変化しないが、転流率は時間の経過とともに増加することを示しています。このことは、ある時点で成立しているソースとシンクとの関係に基づいて、光合成産物の分配パターンが決定され、転流が開始された時点でその基本的なパターンが形成されること、さらに、その後に転流率が増減した場合であっても、ソースとシンクとの関係に大きな変化が生じない限り、分配パターンは維持されるものと考えられます。

 次に、光合成産物の転流が、同化直後から昼夜を通じてどのような時間的変化を示すのかを解析しました。トマト苗は8時間の日長条件で育成されており、植物体はこの日長リズムに順化しています。この条件のもとで、¹⁴CO₂を施与したところ、葉で同化された¹⁴Cは、同化後およそ4時間以内に急速な転流を開始することが認められました。各施与時刻について、施与後の昼間および夜間に転流した割合を整理すると、9:00施与区では昼間8時間で27%、13時施与区では昼間4時間で転流率20%の転流が認められました。一方、17:00施与区では昼間の転流は認められませんでした。これらの結果をもとに、1日の転流量を評価すると、全転流量は41.9%となり、そのうち昼間(8時間)は17.9%、夜間(16時間)は24.4%となり、昼間と夜間の転流量の割合は43:57でした。
 以上のことから、光合成産物の転流は昼夜を通して継続的に起こりますが、時間あたりの転流率は、昼間の方が夜間より高くなることが認められました。

(4)測定結果の解釈
 上記の測定結果をどの様に解釈するか。

 ここでは、まず施与時刻による転流率の違いに注目し、その生理的な意味を考えてみます。9:00はその日の光合成開始時刻にあたり、植物体胎内には新たな光合成産物は蓄積されていない状態であったと考えられます。しかし、測定の結果から、光合成が開始されるとともに光合成産物の転流が開始されたことが認められました。一方で、14CO2同化後の最初の4時間における転流率は必ずしも高くなく、この傾向は13:00の施与区でも同様に認められました。これらの測定結果は、光合成産物は同化直後に直ちに転流させる一方で、その一部は葉内に蓄積されることが分かりました。とくに朝方に同化された光合成産物は、転流率が相対的に低いことから、葉内への蓄積が優先される割合が高いのではないでしょうか。
 一方、17:00に¹⁴CO₂を施与した場合には、その日の光合成産物の蓄積が一日の周期の中で最大に達している時刻であり、この時点で光合成された分のほぼ90%が速やかに転流されていることになります。このことから、日長リズムの夜間直前の時期には、葉内に形成されたスクロース・プールが転流に利用されやすい状態にあるものと考えられます。

 葉で同化された14Cは、同化後約4時間以内に急激に転流し、その後は、少なくとも翌日の朝まで緩やかな転流が継続しました。24時間後の転流については、新たな光合成産物が次々と追加されるため、この転流は生理的な重要性相対的に低いと考えられます。この測定でも、48時間後の転流率は、9:00施与を除いて微増でした。Karn and Sagar(1966)は光合成産物の移動が一週間後にもあることを報告していますが、これには根及び茎等の一時貯蔵器官からの再転流を含めて考慮する必要があると考えます。


 同化直後の急激な転流についてみると、朝方に光合成した場合には、転流率は低い傾向が認められます。Baker and Moorby(1969)等もジャガイモで塊茎への転流に対する寄与を時刻別に調査した結果、同様の結果が得られていることを報告しています。この測定で用いたソース葉は、この生育段階における最大葉を用いており、主として転流を行う葉と考えられます。それにもかかわらず、朝の早い時間帯に同化された光合成産物の転流率が低いことは、同化産物の一部が葉内へ一時的に蓄積されていると考えられます。一方、光合成時間が経過し、日長周期のなかで夜間直前の時期に同化された光合成産物は、葉内のスクロース・プールへ蓄積され、直ちに転流されるものと考えられます。

 このように、この測定結果から、光合成産物の転流は一日24時間、継続的に起こるものの、その速度や割合は昼夜間で異なり、明瞭な日周期リズムを持っていることが示唆されました。これまでに、種々の植物で昼夜間の転流が夜間に多いことは、トマト(Went, 1957)、シュガービート、カボチャ、マスクメロン(Anisimov, et al., 1963)などで報告されています。一方、ポテトの塊茎の夜間における重量増は同化産物の増加ではなく水分増加によることが明らかにされています(Bakaer and Moorby, 1969)。また、シュガーケーン(サトウキビ)では光によって転流が増加することを報告しています。(Hartt, 1965)。著者らの測定では、昼間24°Cで8時間、夜17°Cで16時間の条件の下で、昼夜間の転流率の比はおおむね3:4であることを示しています。このことは、転流速度(時間あたりの転流量)は昼間が高いことを示しています。ただし、この結果には温度条件の違いによる転流速度の違いも考える必要があります。

 昼夜間の転流率の詳細な割合は別として、光合成産物の転流は昼夜、行われ、それは、温度、日長及び光の強さに影響を受けていることが明らかになりました。これらの要因と光合成産物の転流の関係については次の回において考察していきたいと思います。 

参考文献
1)Anisimov, A.A., Fujina, E.K., Dobryakova, L.A. and Likhovidora, F.V. 1963. Diurnal periodicity in translocation of assimilates. Doklady Akad. Nauk SSSR 146: (English translation Biological science section: 1166-1169).
2)Baker, D.A. and Moorby, J. 1969. The transport of sugar, water, and ions into developing potato tubers. Ann. Bot. 33: 729-741.
3)Haart, C.E. 1965. Light and translocation of 14C in detached blades of sugarcane. Plant Physiol. 40:718-724.
4)Hori,Y. and Shishido,Y. 1977. Studies on translocation and distribution of photosynthetic assimilates in tomato plants. I. Effects of feeding time and night temperature on the translocation and distribution of 14C-assimilates.Tohoku J. Agri.res. 28:26-40.
5)Khan,A.A.and Sagar,G.R. 1966. Distribution of 14C-labelled products of photosynthesis during the commercial life of the tomato crop.  Ann.Bot.30:727-743.
6)Went, F.W. 1957. In; The environmental control of plant growth. Chronica Botanica Co. Pp 210-254.