人間とAI(その1)

注目

對馬誠也理事長(以下、對馬):
 これまで遠藤さんがNTTを退職後に、長野県を拠点にして取り組んできた、「農業」と「健康」、そして「気象」について紹介していただきました。ここからは、いよいよ、「生成AI」に話題に移りたいと思います。これまでのお話から、遠藤さんは、NTT時代に「見えていない世界(Invisible World)」、そしてその後の長野県南佐久郡佐久穂町の生活の中では「見えている世界(Visible World)」に携わってきたこと。とくに、「見えていない世界」で世界の研究者や技術者、そして大企業の方々と交流した経験にもとづいて、「見えている世界」で活動されてきたことがよくわかりました。
 遠藤さんが講師として登壇していただいた「生成AI・ビジネス講習会(第1回第2回)」でも、これらの経験や考え方、そして活動をお話ししていただきましたが、この内容を、講習会の受講生だけでなく、多くの人々に知ってもらおうとしたのが、このブログを開始した理由です。現在、このブログを開始してほんとうによかったと思った次第です。
 それでは、さっそく、「人間とAI」の取り組みについてお話をしていただけないでしょうか。

遠藤隆也会員(以下、遠藤):
 「人間とAI」のお話を始める前に、「私とAI」という観点から、当NPO法人主催の「生成AI・ビジネス講習会」の内容について、少し思い返してみたいと思います。

図1.第1回「生成AI・ビジネス講習会」「農業における生成AIの活用とビジネス」のフロントページ.

 第1回目の講習会が開催されたのは2023年8月3日ですが、その当時の状況を振り返ってみると、テレビでも新聞でも、毎日、生成AIの話題が取り上げられていました。また、生成AIの先端企業、例えばGoogle、Amazon、Accentureではリストラが行われたという記事もあり、「シンギュラリティ」が予想よりもはるかに早く起こっているを感じさせました。このような状況の中で、私たちは自分自身の行動変容が必要だと感じつつも、どうすればよいのだろうという悩みが生じたこと、そしてこれらの悩みにどう応えればいいのかをお話しさせて頂きました(図2)。

図2.私たちに生じた6つの悩みとその応え方

 そして、私が外部脳として構築しつつある、以下の、いくつかの入門講座を紹介させていただきました(図3)。


図3-1.小さな気づきを深める認知科学と農業における生成AIの活用とビジネスモデル入門講座.


図3-2.小さな気づきを深める認知科学とChatGTPコードインタープリター入門講座.


図3-3.小さな気づきを深める認知科学とビジネスモデルフレームワーク入門講座.

図3-4.小さな気づきを深める認知科学とAI副業入門講座.

 そして、この急激な変革の時代を生き抜くためには、将来を考えるよりも、「今、ここを地道にしっかり生きる」ことが大切だと思い、次のスライドで閉じさて頂きました。

図4.第1回「生成AI・ビジネス講習会」「農業における生成AIの活用とビジネス」のエンドページ.

對馬:
 この遠藤さんの講義では、自分自身に向き合って、「どうしよう」というところから、いろいろ考え、悩んで、行動していることを感じました。そして、Q1~Q5を通して、「小さな気づきの大切さ」と「外部脳の再構築」という点をお話されたように思いますが、それでよいでしょうか。

遠藤:
 はい、そのとおりです。

對馬:
 そして、Q3以降については、たとえば、「プロンプトエンジニアリング」の重要性などについては、第2回の講習会でお話されたのを記憶しています。とくに、生成AIを活かすも殺すも「プロンプトエンジニアリング」が重要になることや、それに関連して、「従来重視されてきたプログラマーの仕事に代わり、プロンプトエンジニアリングの仕事が増える」ということを言っておられたように思うのですが、そのような理解でよろしいでしょうか。

遠藤:
 はい、その時に、お話しした内容はそのとおりです。ただし、最近になって、プロンプトエンジニアリングの次の仕事も議論し始められていますので、この件につきましては、後ほどお話しさせてください。

對馬:
 すでにプロンプトエンジニアリングの「次の仕事」の議論があるのですか。楽しみにしています。
 さて、このように「時代の急激な流れ」は、今の若い人の職場環境、仕事内容に多大な影響を及ぼすということになるのではないかと思うのですが、その点、例えば「職場や仕事が減るか」などを少し具体的に教えていただけないでしょうか。

遠藤:
 「職場や仕事が減る」ということを言われる方と、いやむしろ「職場の内容が変化し、新しい仕事が増える」という方がおられます。この件につきましても、「生成AIの最新動向」を観察した後で、お話しさせてください。

對馬:
 確かに、悲観論だけでなく、「新しい仕事が増える」という視点も重要でした。この点についても後ほど紹介していただけるとのことですので、楽しみにしています。

遠藤:
 では、第2回の講習会の内容を振り返りたいと思います。

図5.第2回「生成AI・ビジネス講習会」「生成AIとビジネス第二弾」のフロントページ.

 さて、第1回の講習会でお話させて頂いた後も、毎日毎日、情報の大洪水の中で溺れていました。そこで、第2回の講習会ではその情報の大洪水の中からいくつか選び、
1. 生成AIサミット最新情報
2. プロンプトエンジニアリング
3. データアナリスト代行
4. ビジネス事例
についてお話しさせて頂きました。
 そして、最後に、日々変化しつつある状況に対応していき、その動向を見極めるためには、毎日の観察を持続することが大切だと思い、次のスライドで閉じさて頂きました(図6)。

図6.第2回「生成AI・ビジネス講習会」「生成AIとビジネス第二弾」のエンドページ.

人間とAI(その2)につづく

人間とAI(その2)

遠藤隆也会員(以下、遠藤):
 その後も、毎朝、毎朝、新しい情報が、次々に入ってきます。その中で、
・自分のまわりの現実・直接経験・事象そのものを観察てみよう
・自分自身で考えてみよう
・それらのオリジンにふれてみよう
そして、
・自分自身を振り返ってみよう
ということを念頭に、新しい「情報源(オリジン)」を(クラウド環境の)外部脳に「写経」することで、表層に見えている現象、そして見えている現象の底流を流れるものは何なのかを問い続けています。
 この作業過程を図1で示します。赤い矢印は時間軸を示します。そして、薄緑色の平行四角形の領域は私たちのいる「日常の世界」です。その上にいくつもの山のような黒い帯がありますが、これが毎朝、毎朝、次々に入ってくる新しい情報が示す「多様な現象の世界」であり、時間軸とともに日々変容しています。また、黄色の領域がこの表層に現れている「現象の世界の底流」でモノゴトの本質を示すものであり、その中には小さな点で表されている各現象の「情報源(オリジン)」があります。このように「多様な現象の世界」の本質が、「日常の世界」の下にあり、私たちの住む「日常の世界」からは見えません。この「多様な現象の世界」、「日常の世界」、そして「現象の世界の底流」の関係は「現象のアイスバーグ(氷山)構造」とも呼はれています。

図1.「多様な現象の世界」、「日常の世界」、そして「現象の世界の底流」の関係を示した概念図.

 「日常の世界」にいる私たちは、「多様な現象の世界」を見て、思い悩みます。私はこの悩みを解決するために、「多様な現象の世界」を観察し、自分自身で考えることで、「現象の世界の底流」にある現象の「情報源(オリジン)」を探し当てようとします。これにより、モノゴトの本質にふれることができ、喜びを感じられ、思い悩まなくなるのです。
 この行為にはAIが介在しており、「人間とAI」との関係が生じています。このBlogの「汝自身を知れ」でお話ししたように、「人間とコンピュータ」との関係を理解にするために、私は「ヒューマンインタフェース研究」と「認知科学」に没頭しましたが、「人間とAI」との関係に、40年の前に出逢ったこの「ヒューマンインタフェース研究」と「認知科学」の発展形を見いだした訳です。

對馬誠也理事長(以下、對馬):
 ついに、「人間とAI」が出てきました。遠藤さんのお話を伺っていると、「人間とAI」を考えるためには、同時に「人間と人間」と「人間とコンピューター」を理解しなければならないということでよいでしょうか。

遠藤:
 はい、その通りです。基本的にいうと、私たちの日常の生活、コンテクスト、社会の構造、日々の「人間と人間(HHI)」あるいは「人間とコンピューター(HCI)」との関係性の中に、AIという認知機能をもつ新しい道具(ツール)が出てきたわけです。私たちは、この道具を「どのように使っていけばいいのか」を考えていくことから始める必要があります。加えて、この道具は、(プログラム化された)「エージェント」という形で、自らが人間のようにふるまう仲間としても、私たちは考えていかなければなりません。そして、このことが、「人間とAI(HAI)」との関係を複雑にしているのです。

図2.「人間と人間」との関係.「人間と人間」との関係では、対話が重要である(David Roseのblogより).

図3.「人間とコンピュータ」との関係.「人間とコンピュータ」との関係では、ユーザーの多様なニーズに対応するインターフェースが重要である(Jozsef Katona, 2021).

図4.「人間とAI」との関係.「人間とAI」との関係では、ユーザーの意図や文脈を理解した、自然なやり取りが必要である(Fasahat Feroze, 2023).

 人類革新の大劇場で、新たな幕が開きました。それは、学習し、推論し、創造する機械の台頭によって特徴付けられる時代であり、新しい人工知能 (AI)時代の幕開けです。遠い未来のシナリオと思われていたことが、現在、具体化しつつあることで、私たちの働き方、コミュニケーション、創造の仕方から、自分自身や周囲の世界の理解方法まで、あらゆるものが変革しているのです。
 この新しい AI 時代の夜明けに立っている私たちは、単なる傍観者ではなく、積極的な参加者です。私たちが下す決定、私たちが問う質問、そして私たちが抱くビジョンが、この技術革命の方向性を形作ることになります。ですから、好奇心、寛容さ、そして驚きの気持ちを持って、この旅に乗り出しましょう。なぜなら、私たちは単に研究分野を探求しているだけではなく、人間とAIがたどる共通の未来の道筋を描いているからです。
 この道筋では、
 ・New Modes of Thinking
 ・Human-and-AI Collaboration
 ・Co-Creation With AI
 ・Human-in-the-Loop
 ・New Way of Working
 ・New Way of Organization
などの世界で生きていくことになりそうです。
 このように、これらに対応していくためには、「生成AIの人となりを知る」ことがキーとなってきます。

對馬:
 「学習し、推論し、創造する機械の台頭によって特徴付けられる時代であり、新しい人工知能 (AI)時代の幕開けです。遠い未来のシナリオと思われていたことが、現在、具体化しつつあることで、私たちの働き方、コミュニケーション、創造の仕方から、自分自身や周囲の世界の理解方法まで、あらゆるものが変革しているのです」の部分が胸に突き刺さりました。
 生成AIは、従来のものとは全く異なるものということで、あらゆることを変えるとすると、たとえば、イノベーションにおいては、「プロダクト(製品)イノベーション」、「プロセス(生産工程)イノベーション」、「マーケット(市場)イノベーション」、「サプライチェーン(資源供給)イノベーション」、「オーガニゼーション(組織)イノベーション」のすべてに影響するということにもなるのでしょうか。

遠藤:
 はい、そのとおりだと思います。

對馬:
 また、当NPO法人でも力を入れている「人材育成」という視点で考えると、「生成AI」が影響する社会を生き抜く「人材教育」が必要ということにもなるのでしょうか。

遠藤:
 はい、そのとおりだと思います。例えば、すでに、経済産業省などにおいても、「生成AI時代のデジタル人材育成の取組について」の検討が進められています。

對馬:
 今回は「人間とAI」についてお話いただきましたが、私など素人には難しい専門用語がたくさん出てきました。次回は、それらの用語等について勉強しながら、お話を進めていただきたいと思っていますので、よろしくお願いします。