はじめに

注目

 AI(Artificial Intelligence)が産声を上げたのは前世紀の中頃と聞いています。これが私たちの生活の中に溶け込んできたのは2010年以後ではないでしょうか。それが、今や私たちのビジネスパートナーの地位を確立しています。
 このようにめざましく進化を続けるAIと一緒にビジネスを行うためには、AIの「人となり」を知ることが、ビジネスを成功させるうえで一つの秘訣になると考えます。
 そこで、このブログでは、当NPO法人主催している「生成AI・ビジネス講習会」(第1回第2回)の中で、「AIの活用」に関して講義をしていただいている遠藤隆也会員に、このAIの「人となり」をお話ししていただくことにしました。

 お話は、当NPOの對馬誠也理事長と対談形式で進めることにします。

 なお、この対話には素人の私たちには難しい専門用語が沢山でてきます。そこで、一部の用語については、『用語解説』のページを設け、その意味を解説しています。なかには、遠藤氏による解説もありますので、ぜひご覧ください。

健康への取り組み

對馬誠也理事長(以下、對馬):
 前回まで、トマトの生育予測と収穫日予測、そして収量予測への取り組みに関して聞いてきました。この取り組みを聞いているだけでも質問したいことがたくさん出てくるのですが、その部分は後日に譲るとして、次の取り組みに関してお聞きしたいと思います。それは、「健康と気象、行動変容における人間+AI」研究に関しての取り組みです。やっと、このブログを始めた理由の一つである「生成AIについて教えていただくこと」に近づいてきましたが、急がずに、まずは「健康」に関しての取り組みについて教えていただけないでしょうか。

遠藤隆也会員(以下、遠藤):
 これに関しては、長野県佐久地域における健康管理活動への支援と厚生労働省委託研究「地域における新たな普及啓発方法の開発に関する研究」のお話を順にしたいと思います。

 一つ目は、佐久地域における健康管理活動への支援に関してです。
 I(アイ)ターンしてきた佐久地域は地域に根ざした健康管理活動の盛んな地域です。少しでもこの活動に協力したいと思い、佐久総合病院でのイベントに参加しました。この佐久総合病院で2011年に刊行された「健康な地域づくりに向けて 八千穂村全村健康管理の五十年」(図1)の「Ⅶ章 今後の課題と展望」の中で、「今後の課題と展望に対する『提言集』」を執筆しました。そのサブタイトルは、『「活動」と「内面」の再構築を:八千穂の皆さんと佐久総合病院のたまもの』というものです。

図1.書籍「健康な地域づくりに向けて 八千穂村全村健康管理の五十年」の表紙.

 この地域では、農作業をしている畑でも、またJR小海線の車中でもどこに行っても、何気ない会話の中に、佐久総合病院のことを耳にします。そして、この病院で開催されるお祭には、その活動の幅広さと深さに驚かされます。というのは、佐久総合病院の「総合」は、本来の総合病院の「総合」という意味だけでなく、八千穂・南佐久地域の人々の諸活動と心の底を流れる思いまでを含めた「総合」であるような感じを受けるからです。ここに住んでいる私は、皆さんが創られた環境とソーシャルネットワークスの中で生活できる喜びを感じるのです。図2に、新たな拡張的・発達サイクルに向けてのいくつかの提言を、八千穂村・南佐久のネットワーク活動になぞらえて記述してみました。

図2.健康管理運動の展開と展望:八千穂村からの学びと新たな拡張的・発達サイクルに向けて.

對馬:
 遠藤さんのお話から佐久総合病院が単なる「病院」にとどまらず、地域で重要な役割を果たしていることが伝わってきました。
 そこで、さっそく、遠藤さんの提言した「拡張的・発達サイクル」を示す図2について質問させてください。この図だと、なかなかわかりにくいのですが、遠藤さんがとくに「拡張的」と考えた部分はどの部分なのでしょうか。私が気になるのは、例えば、【主体】が「医師」から「医師・住民(衛生指導員、健康づくり員、等)」に変わっていますし、【対象→結果】では「病気の住民→健康な住民」から「病気の住民→健康な住民、健康な住民→健康維持活動」になっている点です。また、これと関連するかと思いますが、【道具】が「薬品・医療機器、医療の知識」から「薬品・医療機器、医療の知識、健康と福祉のつどい、健康福祉大学、等」に変化しています。
 このように「拡張する」ことになった理由と、これが実現すると具体的にどのような活動につながるのかについてぜひ教えていただけないでしょうか。

遠藤:
 この地域に移住して最初に気づいたことは、健康管理活動の主体が「医師」だけではなくて、「医師・住民」へと「拡張」され、医師と住民、衛生指導員、そして健康づくり員が一緒に活動することよって、健康管理活動が新たな発達のサイクルに進化しているということでした。健康は「医師が患者を治すレベル」から、「住民も一緒に参加して、健康管理活動を進めるレベル」に進化しているということです。今では、同様の活動をしている地域もいくつかあるとは思いますが、それが50年も前から(今時点からすると70年も前から)行われていたことに驚きました。なお、衛生指導員と健康づくり員は、各集落レベル(各地域の公民館単位)で活動しています。そして【対象→結果】で示したように、対象が「病気の住民」から「病気の住民、健康な住民」になっています。すなわち、「病気の予防、健康の維持を目的とした活動」が公民館単位に行われているのです。
 また、【道具】としては「薬品・医療機器、医療の知識」から、「薬品・医療機器、医療の知識、健康と福祉のつどい、健康福祉大学、等」に拡張されています。この中の「健康と福祉のつどい」は年に1回開催されており、ここでは、各地域で健康活動を進めている方々、病院の方々、福祉施設の方々などが集まって、お祭りのような雰囲気での食事をし、健康やその時代にあった問題を一緒に考える演劇(住民が出演、演出し、シナリオ、舞台を作成します)で大いに盛り上がるのです。

對馬:
 健康診断の重要性を考え、「病気の予防、健康の維持」を目的とした活動を公民館単位で行っているということはとても印象に残りました。
 遠藤さんもご存じのように、わたしは、10年前に、ヒトの「健康診断」を参考にした『健康診断に基づく土壌病害管理(ヘソディム)』を土壌病害管理の分野で提案していますが、それを推進する中で、佐久総合病院の取り組みには見習わなければならないことがたくさんあると感じました。

遠藤:
 二つ目の取り組みを紹介します。これは、厚生労働省委託研究「地域における新たな普及啓発方法の開発に関する研究」に、研究分担者として参加したということです。ここで、地域での健康危機情報に関する新たな普及啓発方法の研究とその在り方に関して、企画・提言を行いました。

對馬:
 具体的にはどんな提案をしたのか教えていただけないでしょうか。

遠藤:
 当時、厚生労働省の健康危機情報は、ホームページのどこかに書かれているものの、一般の国民、地域の住民がその情報にふれることは難しいことでした。「ホームページの書き方」によって普及の度合いは変わること、ホームページを見るという「プル型情報発信」ではなくて、関連組織などとともに「プッシュ型情報発信」を組み合わせること、そして、「地域における健康管理活動とコラボレーションした情報発信」や「地域における新たな普及啓発方法の開発」に関する新しい方法として、ABCD(Activity Based Community Design)を提案しました(地域における新たな普及啓発の方法論に関する資料も参照のこと)。今日では、コロナウイルスの課題などに直面したことで、これらの提案は、皆さんにとっては普通のことになっています。

對馬:
 ありがとうございます。情報発信の仕方一つとっても「プル型」と「プッシュ型」があるのですね。とても勉強になります。ここで、遠藤さんが考えた「プッシュ型」について、具体的に教えていただけないでしょうか。

遠藤:
 メールやメッセンジャーのようなツールは、情報をプッシュするツールと言えます。
情報を送信すると受信者のスマホが鳴動したり、アプリに数字のバッジが付いたり、パソコンでポップアップが出たり、要するに「情報が来ましたよ」というお知らせが受信者に明示されます。これで、情報を「プッシュ」するのです。

對馬:
 ありがとうございます。よくわかりました。

遠藤:
 それ以外にも、お客様からの依頼で、以下の取り組みに携わりました。たとえば、ライフログを活用したヘルスケアサービスに関する市場調査と、それに基づいたビジネスモデルと事業戦略を提案する企画です。簡単にいうと、個人個人のヘルスケアに関するライフログデータ収集をもとにしたサービスに関する世界の市場調査をおこない、この市場調査の結果から構築したビジネスモデルと事業戦略を依頼会社に提案しました。

對馬:
 企業から依頼を受けて調査するということですが、このような調査依頼もビジネスとしてかなりあるということですね。研究者集団で作っている当NPO法人の代表として、いろいろなビジネス形態があるということにとても興味があるので、これに関して教えていただけると嬉しいです。

遠藤:
 このような企画は、M-SAKUネットワークスの中の「HI総合デザイナー(Human activity & Information ecology Ground Designer)/BMX(Business Model Transformation)戦略デザイナーの活動例」で、いくつかの事例を示していますので、こちらをご覧ください。

對馬:
 ありがとうございます。勉強してみます。

遠藤:
 ほかに、「ライフアシストのためのWearable Sensor Networks」などのIoT(Internet of Things)サービスの創出という企画があります。これは、身体に付けるWearable Sensorを使って身体に関するデータを収集し、そのデータを活用して生活をアシストするサービスに関して、その世界の市場調査を行い、ビジネスモデルと事業戦略を依頼会社に提案するものです。

對馬:
 今、この分野の素人ながら、それぞれの企画はとても進んでいると思うのですが、そうした企画が実際にビジネスになったのですね。ついでに、これらの中で、遠藤さんが印象に残った製品があったら教えていただけないでしょうか。

遠藤:
 身体に付けるWearable Sensorを使って、身体に関する情報をまとめてレポートする実験を行いましたが、ここで、印象に残った製品はTOREYの「hitoe」です。

對馬:
 さっそく「hitoe」をwebで見ました。いろんな製品が出ているのですね。将来、農業現場で活用できるものがあるかもしれないので、少し勉強したいと思います。

遠藤:
 それから、脳腸相関の調査研究もあります。具体的には、上述のライフログ、ライフアシストの研究開発を進める中で、脳腸相関が人間の生活に大きな影響を及ぼしていることに気づき、世界の最先端研究を調査研究してレポートしました。脳と腸は自律神経やホルモンを介してお互いに情報を交換しています。 そのため脳が緊張や不安などのストレスを受けるとその情報が腸に伝えられ、結果的に腹痛や下痢、便秘などを引き起こすことになります。 逆に、腸内環境が悪化すると、その情報が脳に伝わって自律神経が乱れ、様々な心身の不調が起こりやすくなるのです。

對馬:
 腸内細菌が脳に影響を及ぼすという書籍も出ているのですが、ここで遠藤さんが行ったことはあくまでも論文の調査研究ということでしょうか。医師へのヒヤリングや学会での情報収集でしょうか。

遠藤:
 はい、ここでの仕事は論文の調査研究です。

對馬:
 ありがとうございます。

遠藤:
 そして、「コロナ後遺症対応戦略デザイン」があります。「脳科学」や「脳腸相関」の調査研究をすすめていた頃、コロナウイルスが世界的な課題として持ち上がりました。コロナウイルスと症状に関する世界の論文を調ベている時に、「後遺症で苦しんでいる方が大勢おられるので、その調査と対応策の現状を調査してほしい」を依頼されたので、コロナウイルスへの対応策と考えれる行動変容策をとりまとめてレポートしました。

對馬:
 遠藤さんが「健康」について実に多くのことに取り組んでおられたことに改めてすごいなと思いました。現在もいろいろなことに取り組んでおられると思いますので、それらについては、近い将来に教えていただけたらと思います。
 ここで「健康」についてのお話は終わりにして、次に移りたいと思います。