デジタルのCopの胞子をWXBCに播く(その1)

對馬誠也理事長(以下、對馬):
 「健康」が一段落しましたので、次は「気象」についての取り組みを教えていただけないでしょうか。

遠藤隆也会員(以下、遠藤):
 「気象」についての取り組みは、「トマトの生育予測、収穫日予測、収量予測の取り組み」のところでも述べましたが、ある大規模太陽光型植物工場(養液栽培)に3年間(10作)通って、施設内のCO2濃度、多地点の光量子量、気温、湿度などの「環境データ(説明変数)」を自動測定してクラウド共有するとともに、トマトの生育量、開花日、収穫日、収量などの「教師データ(目的変数)」を人手で観測・測定することで、「環境データ」と「教師データ」との分析を行いました。
 この大規模太陽光型植物工場の「環境データ(説明変数)」を測定していると、当然のことながら、それらの環境制御されているデータも、外部の気象・気候の影響で制御しきれないデータが現れてきます。そこで、この外部環境である気象・気候をもっと勉強してみようと思いました。
 ちょうどそのころ、気象データの活用を考える新たなコンソーシアム(WXBC:気象ビジネス推進コンソーシアム)設立の後押しをしていた経緯もあり、まずは、WXBCのセミナーや気象データ分析チャレンジなどに参加して気象・気候を勉強しました。このために、ほぼ毎月、新幹線で、旧気象庁講堂(千代田区竹橋)などに通いました(そして、私は素人であったため、講堂では、真ん前の真ん中に座りました)。
 ここでは、このWXBCで体験(WXBC eXperience)をお話しすることにしましょう。このお話は、すでにWXBCの皆さんには、2020年2月4日に開催された「第4回気象ビジネスフォーラム」の時にお話ししたものです。なお、当時、「天気の子」というアニメが話題となっていました。その監督が長野県南佐久郡の出身者だったので、自分も「天気の子」なんだな~あと思いました。

図1.2020年2月4日に開催された第4回気象ビジネスフォーラムでお話ししたWXBCで体験(WXBC eXperience)の表紙.

對馬:
 お話をお聞きする前に質問があります。大規模太陽光型植物工場内での「データ分析」を行っていたら、外部の気象・気候の影響によって制御しきれないデータが現れてきたので、気象・気候をもっと勉強しようと思い、WXBCのセミナー等に参加したとのことですが、このWXBCについて少し紹介していただけないでしょうか。

遠藤:
 このWXBCは多様な気象データを高度利用し、様々な社会課題の解決や産業創出・活性化を目指す産学官の連携組織です。「気象は農業、観光、製造・販売さらには消費者の行動など、様々な分野に大きな影響を与えます。あなたのビジネスをよりよくするため気象データを活用してみませんか?」という謳い文句にはじまりました。会員数は、2024年2月29日現在で1381会員、事務局は気象庁です。なお、WXBCの詳細については、WXBCのサイトをご覧ください。

對馬:
 ありがとうございます。

遠藤:
 はい。では、話を続けます。
 WXBCの多くのセミナーと気象データ分析チャレンジに参加する、すなわち、田舎の生活から行動変容してみると、少しづつ自分の中の意識変容が起こってきました。
 「勉強しているだけでよいのかな~、何か、皆で、世の中にお役にたてることはないのか」。

図2.行動変容から意識変容を導いたWXBCのセミナーリスト.

 そこで、気象データを高度利用に興味ある方々と話し合ってみました。そのときの様子を、当時の気象庁の情報利用推進課の課長さんに書いて頂きました(図3)。この絵の中の農業関係WXBC会員が私で、民間予報会社(WXBC会員)の一人がハレックスの越智正昭さんです。

図3.気象データを世の中にお役にたてることに興味をもった方々との話し合いの様子.

 この絵(図3)が未来投資会議構造改革徹底推進会合「地域経済・インフラ」会合(農林水産業)(第6回)にも報告された「霧プロジェクト」へと進化していきました。

對馬:
 実は、越智正昭氏は当NPO法人の会員になったいただいていますので、このようなセミナー等で、当法人の会員の皆さんが、気象データの利用促進に向けて議論されていることを知りとてもうれしくなりました。このブログの編集を担当している鳥谷副理事長からも定期的にWXBCの情報をいただいていたのですが、今回、また別の視点からの情報を得ることができました。
 そして、そうした取り組みが、未来投資会議構造改革徹底推進会合にも報告された「霧プロジェクト」へと進化したとのことですが、この「霧プロジェクト」とはどんなものなかか簡単に紹介していただけないでしょうか。

遠藤:

 この「プロジェクト」は、株式会社ハレックスが中心になってWXBC会員の協力によって進められたものです。当時、北海道浜頓別の酪農家様からのお困りごとであった「霧による牧草の湿りを予測できないか」という課題を解決するために発足しました(図4)。

図4.「霧プロジェクト」の概要(WXBC平成30年度WXBCセミナー in 大阪 資料未来投資会議構造改革徹底推進会合「地域経済・インフラ」会合(農林水産業)(第6回) 資料より).

 ここで、現場での具体的なニーズを解決するために、WXBC会員が協力して取り組んだ「霧プロジェクト」の枠組みを図5に示すことにします。

図5.WXBC会員が協力して取り組んだ霧プロジェクト
(ハレックス社報告資料をもとに).

對馬:
 「霧プロジェクト」について、よくわかりました。丁寧なご説明ありがとうございます。では、このお話の続きをお願いします。 

遠藤:
 この「霧プロジェクト」をコーディネートする中で、「決められたソリューションを解決するための、単一のプロジェクト形態だけではなく、人材育成も兼ねて、将来を見据えたエコシステムを創造していく」ことはできないかと悩んでみることにしました。また、この「悩んでみること」を実践する一方で、私は、田舎にIターンしてきて、「スローなユビキタスライフ」を楽しみながら、私が生きている環境・エコシステムについての勉強と活動も進めました。
 その中のひとつが、「コケ」の活動です(図6)。この「コケ」の活動は、やがて「北八ヶ岳コケの会」となり、「コケ」観察ブームを起こしたことから、海外からも注目され、アメリカのウォールストリートジャーナルに掲載されました(The Wall Street Journal)(Ydejesus, November 3, 2015: Watching the Moss Grow in Japan. Moss-themed hiking tours and dinners are gaining popularity in Japan. Photo: Eric Pfanner)。
 なお、この「コケ」のお話は、吉永小百合さんのCMで有名な「大人の休日倶楽部」の長野県「白駒の池篇」でも紹介されています。

図6.「北八ヶ岳コケの会」の紹介

 もちろん、この活動にも、このBlog「デジタルの胞子を播く」に示した、「実践のコミュニティ(CoP:Community of Practice)」活動が使われています。
 そして、この活動の考え方を、WXBCの活動の進化にお役に立てないかと考えました。そこで、前述のWXBCでのWXBC eXperience講演のなかの最後に、下の図7を示したのです。そう、「実践のコミュニティ(CoP:Community of Practice)」活動の胞子を、WXBC人材育成WGのなかに、播いてみることにしたのです。

図7.WXBCにおける「実践のコミュニティ(CoP:Community of Practice)」活動

 これが、現在、WXBCの人材育成WGのなかで、5つのCoP活動が進行している背景となっています。因みに、本ブログの題名「デジタルの胞子を播く」のアイデアは、ここから生まれました。
 この5つのCoPについては、次回にお話しさせて頂きます。

對馬:
 ありがとうございます。次回もいろいろ楽しいお話を聞けることを楽しみにしています。