「わかる」

對馬誠也理事長(以下、對馬):
 それでは少し話題を変えたいと思います。遠藤さんは、そもそも「わかる」とは、そして「わかりあえる」とは、どういうことか?を考え、サービスに結び付けることに取り組んできたわけですが、この点について教えていただきたいと思います。
 まず、認知科学者を集めたそうですが、認知科学者はどんな研究を行ったのでしょうか。

遠藤隆也会員(以下、遠藤):
 コンピュータ・ヒューマンインタラクションと認知科学の研究を行いました。

對馬:
 前のお話では、自分の脳の中のニューロンとシナプスはどのようになっていて、どのように発達・進化・深化しているのだろうか?とあるのですが、この点が明らかになると、たとえば、「わかる」とはどういうことかがわかるということになるのでしょうか。

遠藤:
 そうは簡単にはいきません。ただし、自分が言語をどのように生成しているかという基本的な構造をシミュレートした例としてとらえることはできます。加えて、自分はわかっても、他の人々とわかりあえるかということになると、そこには、パーソナリティや認知構造の違いなども関係してきます。

對馬:
 素人には、難しいお話です。ただ、素人としては、具体的にイメージできたらと思うものですから、そうした取り組みの中から、研究所から出てきた研究成果にはどのようなものがあったのでしょうか。

遠藤:
 研究所全体には、約300名が所属し、その方々の研究成果については大量になるので、ここでは、自分だけの研究成果というか、コンピュータ・ヒューマンインタラクションや認知科学について、当時、自分なりにわかってきたことについて示します。
 日本認知科学会の常任運営委員として活動し、認知科学 Vol.2 No.1(Feb. 1995)に「特集-リプレゼンテーションとインタフェース」を編集とりまとめました。その中に、「リプレゼンテーションとインタフェース問題の基底 -わかる認知科学から、わかりあえるマクロな認知工学に向けて」として、当時の課題と自分がわかったこととについてまとめていますので、そちらをご覧頂ければ幸いです。

對馬:
 ありがとうございました。また、勉強しますので、いろいろ教えていただきたいと思います。研究所とは離れますが、「マルチメディア構想」という用語がとても気になりました。これも当時としては新しい概念のように思うのですが、その内容と取り組みについて教えていただけませんか。

遠藤:
 当時は、デジタルデータ通信、テレビ電話、そして、インターネットなどなど、通信メディアも多様なものを提供できるようになっていました。また、オーグメンテッドリアリティー(Augmented Reality:AR 拡張現実)とバーチャルリアリティ(Virtual Reality:VR 仮想現実)などの研究も進められ、人とコンピュータとの間の表現メディアも多様なものを提供できるようになっていました。これらが総合して「マルチメディア研究」を推進していました。加えて、「(ドコモの)多様なモバイル通信」や大容量の超高速光ファイバーの利用も可能になってきました。そこで、これらを戦略的に総合し、日本中に超高速光ファイバーネットワークを構築し、新しいマルチメディアサービスを提供するという、NTTの企業戦略として「マルチメディア構想」が打ち上げられました。
 1994年1月に「マルチメディア時代に向けてのNTTの基本構想」を発表してからの発展的取り組み例は、ニュース・リリース「NTTグループ3ヵ年経営計画について-『グローバル情報流通企業グループ』への変革-」をご覧ください。

對馬:
 いろいろ教えていただきありがとうございます。遠藤さんとお話していると、とにかく勉強しなければならないことが沢山でてくるなと感じると同時に、遠藤さんの関心の広さと、業界の大きさ、取り組み状況など、漠然としていますが理解できてきたように思います。


 ここまでは、遠藤会員のNTT時代の話でした。今後は、このNTT時代の話の続きと、NTT後の取り組み、現在の取り組みなどについて伺いたいと思います。
 生成AIの話はかなり先になりますが、これまでのお話で、私はとてもすごい情報をいただいたと思っています。きっと、読者も飽きずに読んでいただいたと思いますので、これからも、お付き合いお願いします(對馬)。