人間とAI(その2)

遠藤隆也会員(以下、遠藤):
 その後も、毎朝、毎朝、新しい情報が、次々に入ってきます。その中で、
・自分のまわりの現実・直接経験・事象そのものを観察てみよう
・自分自身で考えてみよう
・それらのオリジンにふれてみよう
そして、
・自分自身を振り返ってみよう
ということを念頭に、新しい「情報源(オリジン)」を(クラウド環境の)外部脳に「写経」することで、表層に見えている現象、そして見えている現象の底流を流れるものは何なのかを問い続けています。
 この作業過程を図1で示します。赤い矢印は時間軸を示します。そして、薄緑色の平行四角形の領域は私たちのいる「日常の世界」です。その上にいくつもの山のような黒い帯がありますが、これが毎朝、毎朝、次々に入ってくる新しい情報が示す「多様な現象の世界」であり、時間軸とともに日々変容しています。また、黄色の領域がこの表層に現れている「現象の世界の底流」でモノゴトの本質を示すものであり、その中には小さな点で表されている各現象の「情報源(オリジン)」があります。このように「多様な現象の世界」の本質が、「日常の世界」の下にあり、私たちの住む「日常の世界」からは見えません。この「多様な現象の世界」、「日常の世界」、そして「現象の世界の底流」の関係は「現象のアイスバーグ(氷山)構造」とも呼はれています。

図1.「多様な現象の世界」、「日常の世界」、そして「現象の世界の底流」の関係を示した概念図.

 「日常の世界」にいる私たちは、「多様な現象の世界」を見て、思い悩みます。私はこの悩みを解決するために、「多様な現象の世界」を観察し、自分自身で考えることで、「現象の世界の底流」にある現象の「情報源(オリジン)」を探し当てようとします。これにより、モノゴトの本質にふれることができ、喜びを感じられ、思い悩まなくなるのです。
 この行為にはAIが介在しており、「人間とAI」との関係が生じています。このBlogの「汝自身を知れ」でお話ししたように、「人間とコンピュータ」との関係を理解にするために、私は「ヒューマンインタフェース研究」と「認知科学」に没頭しましたが、「人間とAI」との関係に、40年の前に出逢ったこの「ヒューマンインタフェース研究」と「認知科学」の発展形を見いだした訳です。

對馬誠也理事長(以下、對馬):
 ついに、「人間とAI」が出てきました。遠藤さんのお話を伺っていると、「人間とAI」を考えるためには、同時に「人間と人間」と「人間とコンピューター」を理解しなければならないということでよいでしょうか。

遠藤:
 はい、その通りです。基本的にいうと、私たちの日常の生活、コンテクスト、社会の構造、日々の「人間と人間(HHI)」あるいは「人間とコンピューター(HCI)」との関係性の中に、AIという認知機能をもつ新しい道具(ツール)が出てきたわけです。私たちは、この道具を「どのように使っていけばいいのか」を考えていくことから始める必要があります。加えて、この道具は、(プログラム化された)「エージェント」という形で、自らが人間のようにふるまう仲間としても、私たちは考えていかなければなりません。そして、このことが、「人間とAI(HAI)」との関係を複雑にしているのです。

図2.「人間と人間」との関係.「人間と人間」との関係では、対話が重要である(David Roseのblogより).

図3.「人間とコンピュータ」との関係.「人間とコンピュータ」との関係では、ユーザーの多様なニーズに対応するインターフェースが重要である(Jozsef Katona, 2021).

図4.「人間とAI」との関係.「人間とAI」との関係では、ユーザーの意図や文脈を理解した、自然なやり取りが必要である(Fasahat Feroze, 2023).

 人類革新の大劇場で、新たな幕が開きました。それは、学習し、推論し、創造する機械の台頭によって特徴付けられる時代であり、新しい人工知能 (AI)時代の幕開けです。遠い未来のシナリオと思われていたことが、現在、具体化しつつあることで、私たちの働き方、コミュニケーション、創造の仕方から、自分自身や周囲の世界の理解方法まで、あらゆるものが変革しているのです。
 この新しい AI 時代の夜明けに立っている私たちは、単なる傍観者ではなく、積極的な参加者です。私たちが下す決定、私たちが問う質問、そして私たちが抱くビジョンが、この技術革命の方向性を形作ることになります。ですから、好奇心、寛容さ、そして驚きの気持ちを持って、この旅に乗り出しましょう。なぜなら、私たちは単に研究分野を探求しているだけではなく、人間とAIがたどる共通の未来の道筋を描いているからです。
 この道筋では、
 ・New Modes of Thinking
 ・Human-and-AI Collaboration
 ・Co-Creation With AI
 ・Human-in-the-Loop
 ・New Way of Working
 ・New Way of Organization
などの世界で生きていくことになりそうです。
 このように、これらに対応していくためには、「生成AIの人となりを知る」ことがキーとなってきます。

對馬:
 「学習し、推論し、創造する機械の台頭によって特徴付けられる時代であり、新しい人工知能 (AI)時代の幕開けです。遠い未来のシナリオと思われていたことが、現在、具体化しつつあることで、私たちの働き方、コミュニケーション、創造の仕方から、自分自身や周囲の世界の理解方法まで、あらゆるものが変革しているのです」の部分が胸に突き刺さりました。
 生成AIは、従来のものとは全く異なるものということで、あらゆることを変えるとすると、たとえば、イノベーションにおいては、「プロダクト(製品)イノベーション」、「プロセス(生産工程)イノベーション」、「マーケット(市場)イノベーション」、「サプライチェーン(資源供給)イノベーション」、「オーガニゼーション(組織)イノベーション」のすべてに影響するということにもなるのでしょうか。

遠藤:
 はい、そのとおりだと思います。

對馬:
 また、当NPO法人でも力を入れている「人材育成」という視点で考えると、「生成AI」が影響する社会を生き抜く「人材教育」が必要ということにもなるのでしょうか。

遠藤:
 はい、そのとおりだと思います。例えば、すでに、経済産業省などにおいても、「生成AI時代のデジタル人材育成の取組について」の検討が進められています。

對馬:
 今回は「人間とAI」についてお話いただきましたが、私など素人には難しい専門用語がたくさん出てきました。次回は、それらの用語等について勉強しながら、お話を進めていただきたいと思っていますので、よろしくお願いします。