デジタルのCopの胞子をWXBCに播く(その2)

對馬誠也理事長(以下、對馬)
 前回は、WXBC(気象ビジネス推進コンソーシアム)会員が協力して取り組んだ枠組みについてお話していただきました。前回のBlogに、『「実践のコミュニティ(CoP:Community of Practice)」活動の胞子を、WXBCの人材育成WGのなかに、播いてみることにしたのです』とあり、その活動が、現在、WXBCの人材育成WGのなかで、5つのCoP活動が進行している背景となっています』とのことですので、今回は、この5つのCoPについて教えていただけたらと思います(WGはワーキンググループのこと)。よろしくお願いします。

遠藤隆也会員(以下、遠藤):
 では、CoP活動の概要を図1に示します。

図1.CoP活動の概要(令和5年度の活動状況を例にして).

 この図は、WXBC(気象ビジネス推進コンソーシアム)人材育成ワーキンググループで主催した「WXBC 第4回人材育成WGオープンセミナー:農業分野勉強会の令和5年度取り組み」のなかの資料より抜粋したものです。
 この図に示すように、「徹底的に現場の声を伺う!」ことを実践する場として、以下の5つのCoPが活動しています。

①AURENS CoP
・北海道の酪農などの実業・経営の観点で、気象情報を活かす為の自治体や農業団体等地方の声をくみ取る活動。
②気象予報士CoP
・ローカルあるいはパーソナル課題への取り組み(例:凍霜害ゼミ)。
・局地気象現象への取組み(観測や調査の実践)。
③野菜くらぶCoP
・群馬県昭和村を拠点とする生産者団体「野菜くらぶ」は、群馬はもとより、青森、静岡、長野などの野菜生産地で、その土地に合った作物の適地適作を行い、1年をとおして安定的な野菜の出荷をする取り組みをされている。この「野菜くらぶ」とコラボレーションをすることで、ネットワーク化された総合的な生産から流通までのビジネス活動と気象予測情報との関連性を追及。
④気候情報CoP
・気候情報勉強会との連携。
・気象情報の利用普及の課題共有。
⑤えひめCoP
・愛媛地域の産官学有志による、気象に関する地域課題への取組み。

 各Copの活動の詳細に関しては、人材育成ワーキンググループのサイトをご覧ください。なお、このサイトの情報は、WXBC会員にのみアクセスが可能となっていますので、読者の方でWXBC会員未登録の方は、是非この機会に会員登録されると良いと思います。

 この5つのCoPの中で、野菜くらぶCoPに関しては、2024年5月10日(金)に開催された「WXBC人材育成WG 第4回オープンセミナー ~グループ別勉強会活動報告会~」における最後の話題:「気象データ活用談義:気象データを上手く使うコツ!~農業分野での挑戦に学ぶ~」の中で、詳細に議論されました。その概要には、

 人材育成WGでは、勉強会における活動目標の一つとして「ユーザー側とシーズ側の連携・協働の場つくり、連携・協働による人材の育成」を掲げ、活動を展開しています。今回の気象データ活用談義も正にその一環であり、農業分野勉強会でのCoP(Community of Practice)の取り組みは農業以外の分野でも同じ展開が見込めるはず、参考になるはず!
ここ数年、CoPの一つとして、気象データ活用の現場におられる野菜の生産者&供給者の生の声に耳を傾け、生産地と生産物の特性に合わせた気象データ提供を通して、見えてきたこと、分かったことを、それぞれの立場から率直に語り合いたいと思います。

とあり、これから皆さん自身の周りの方々とご一緒にCoP活動を始めたいと思われている方には、とても参考になると思います。

 例えば、この談義の中では、以下のような議論・コメントが出されていました。
○徹底的に現場の声を伺う!(活用情報のご紹介):
・私たちは、生産者の部会に加えていただき、営農での課題や不安・心配を伺い、圃場の備えや生産に役立つ気象情報のあり方、翻訳・解説を、CoP活動を通じて考えている。
○現場の声からの気づき (生産者の思いと期待):
・生産者の部会では、生産にまつわる気象や天候の話しが必ず挙がる。すなわち、農家に天気は欠かせない情報。
・気象情報は、生産者の目線で検討され、心に響く(参考にしたくなる)情報に翻訳されることが必要。
・気象情報がより普及し利用されるためには、 圃場単位・パーソナルに利用できる気象情報の整備が課題。あわせて、気象情報から現場のニーズを共同して読み解き、翻訳の担い手の育成も欠かせない。

 これらのCoP活動を進めていると、段々と参加者の意識が変容し、行動も変容していることに出逢うことがしばしばあり、それは、この上ない喜びでもあります。このような体験(Experience)を、とりまとめて話してみることにしました。

図2.CoP活動での体験をまとめたWXBC eXperience-2の発表の表紙.

 なお、このお話の源になっているのは、コロナが始まった年の2020年2月4日のWXBC総会の場で話したことが始まりです。(なお、この時がリアルな場で大勢が集まった最後の場でした。)

図3.2019年までのWXBCでの活動をまとめたWXBC eXperienceの発表の表紙.

 「実践のコミュニティ(CoP:Community of Practice)」活動を進めていると、その中では、次のように、内容が進化・深化していってることが感じられてきました。

・コミュニケーション(Communication):現場で実際に起こっている問題を分かち合える。
・コミュニティ(Community):この中では何を話しても安全・安心、外に出ない。各自が内面で抱えている悩みの表出もできる。
・コラボレーション(Collaboration):参加者の得意が活かされ、お互いに深化する。
・コーディネーション(Coordination):仲間の内面が深化し、何だかうれしくなる。
・コンフリクト(Conflict):矛盾、困難なこと。これがまた次のイノベーションへ進展する。

 そして、コミュニティの実践活動が活発化して、お互いに「ありがとうございました」というメールがたくさん飛び交うようになっていってる背景には、つぎのようなことがキーポイントになっているのではないかと感じてきました。

・体験(Experience)や内面にある「小さな気づき」を「外在化」して、「それいいねー!」と、Co-learningしていく喜び。
・活動を続けていくうちに、Collective Wisdom(集合知)が生まれてきているような気がする(感じがする)。
・そして、仲間として、「共深化」、「共進化」しているような気がして、うれしくなってくる。

 このような「小さな気づき」を大切にして進めていくことが、大事だと思いました。

 一方で、これらの日々の活動を観察する中で、また、別の気づきも現れてきました。

・毎週毎週、「次週の気象予測データを収集」し、それを目的に沿って「見える化」し、「コンテクストに合わせたコメント付け」をするという、同じような「タスク」を人手で繰り返している。
・この「タスク」は、1か所の農場だけではなく、コミュニティに参加している各農場で必要な情報であり、それも、各々のところで、「ローカル化」、そして「パーソナライズ化」されたものが望まれている。
・ある人からの「疑問・質問に対する専門的な回答」メールは、他の人にとっても役に立つことであり、単なる1回のメールのやりとりで終わっては「もったいない」。

 このようにCoPの中で繰り返されている「人間の活動」の中に、もしかして、「生成AIのエージェント」が仲間として入ったらどうなるか?人間とAIがコラボレーションができるように「活動をデザイン」していくと面白いのではないかと、思うようになってきました。

對馬:
 とてもわかりやすく詳細に説明していただきありがとうございます。5つのCoPを通して、「新たな気づき」が生まれ、さらに活動を通して「参加者の皆さんの意識変容と行動変容」が起こっているという遠藤さんのお話はとても説得力があると思いました。
 気象ビジネスになるにはいろいろ課題があるようなので、今後の活動を楽しみにしています。
 また、ある程度活動が進んだら、ここでお話してほしいと思います。
 次回は、「人間とAI」に進みたいと思います。