人間とAI(その3)

對馬誠也理事長(以下、對馬):
 ここで、前回までのお話の中でいくつか確認しておきたいことがあるので、それをお聞きしたいと思います。
 まず、「テレビでも新聞でも、毎日、生成AIの話題が取り上げられていました。また、生成AIの先端企業、例えばGoogle、Amazon、Accentureではリストラが行われたという記事云々」とお話しされていましたが、どのような職種の方のリストラが、どのような理由で始まったのでしょうか。また、このようなことが日本でもこれから起きるということになるのでしょうか。

遠藤隆也会員(以下、遠藤):
 私には、詳しいことはわかりません。ただ、ネット情報では、当時は例えば、
(1)グーグルCEOが謝罪した世界規模のリストラ。人員整理1万2000人、「大変申し訳なく思っている」。
(2)アマゾン「一番の稼ぎ時」に1万人も解雇する事情。業績の伸びが20年ぶりに大幅に鈍化している
(3)「コンサルあまり」の時代が始まった…マッキンゼー、アクセンチュアが大規模リストラに追い込まれた理由【2023上半期BEST5】
などが出ていました。

對馬:
 つぎに、「シンギュラリティが予想よりもはるかに早く起こっているを感じさせました」とのことですが、この状況で、わたしたちが考えるべきこと、そしてできることはどのようなことなのでしょうか。
 生成AIに詳しい遠藤さんが、「自分自身の行動変容が必要なことは感じつつもどうすればよいのだろうか?」と悩んでおられるのですから簡単ではないと思いますが、たとえば、どのようなことを学ぶとよいと思われるのでしょうか。

遠藤:
 シンギュラリティについては、お一人お一人が置かれている状況が違うと思いますので、お答えするのが難しいかと思います。
 私の場合は、以前にお話ししましたように、目の前にある疑問に思った『小さな気づき』を、毎日、愚直に積み重ねていくことにしております。このような中では、最近の生成AI情報の継続的な勉強よりも、例えば、「生成AI時代を生き抜くための外部脳の育て方(云々)」のような、基本に戻って考えていくことを学ぶことが必要ではないかと思っております。

對馬:
 また、遠藤さんの文章の中には、しばしば「情報の洪水の中で溺れている」という表現が出てくるのですが、この点にも素人のわたしにはとても興味があります。
 遠藤さんは、どのような方法でgoogleなどの情報を毎日受け取っているのでしょうか。

遠藤:
 私は、毎朝、毎朝、入ってくる海外の生成AI関連のメール情報を一覧して、その中で気になるものを見つけると、このメールを『自分』の『分』にあたる、もう一人の『(AI担当の)自分』宛に転送します。そして、その(AI担当の)自分のメールのGmail受信箱を眺めて、その中で同じような内容の記事(〇〇〇)を集めて、GoogleワークスペースGoogle Docsの中に、例えば「気づきを深める認知科学と〇〇〇入門講座」で、自分で自分自身にこの内容を教える気持ちになって、重要と思われる英文記事は翻訳しながら、毎日、いわば『写経』を続けています。
 これを数か月続けていると、世の中の動向のようなものが見えてくるような感じがしています。

對馬:
 毎日、メールと格闘しているのですね。そして、そこでは、多量の情報が飛び交っているのですね。素人ながら情報量の多さを何となく予想はできても、それを(AI担当の)もう一人の自分のために整理するのは大変なことですね。この、遠藤さんの情報の整理の仕方をぜひ、こんど、NPOが主催する「リカレント塾」でもお話していただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
 さて、前回にも説明していただきましたが、「表層に見えている現象、そして見えている現象の底流を流れるものは、何なのか?ということを理解することが重要だということで、これについては、そこに、40年も前に出逢った『ヒューマンインタフェース研究』と『認知科学』の発展形が見出された訳・・・」とあります。この部分が、素人にはわかりにくいので、繰り返しになるのですが、再度、教えていただけないでしょうか。たとえば、『表層に見えている現象』が○○の場合、その底流に流れているのは××だという感じでお話いただけるとよいのですが。

遠藤:
 この前のご質問の回答にありますように、自分で自分に教える気持ちになって、毎週、重要と思われる英文記事を翻訳しながら、毎日、いわば『写経』を数か月続けていると、世の中の動向のようなものが見えてくるような感じがしています。この場合は、『表層に見えている現象』とは、「生成AIに関するいろいろな記事とかうわさなど」が現象となって見えています。ところが、同じような内容の記事(〇〇〇)を集めて、GoogleワークスペースGoogle Docsの中に、たとえば「気づきを深める認知科学と〇〇〇入門講座」として、自分で自分自身に教える気持ちになって、毎日、重要と思われる英文記事を翻訳しながら、毎日、いわば「写経」を続けていると、『見えている現象の底流に流れているもの』と『その現象を起こしているオリジン』が何なのか、浮かび上がって見えてくるようになってきいます(図)。

図.『表層に見えている現象』、『見えている現象の底流に流れているもの』と『その現象を起こしているオリジン』の説明.いくつもの山のように見えているのが,人々が日常に見ている日々変容する多様な『表層に見えている現象』の世界,黄色の部分が『見えている現象の底流に流れているもの』,そして,この黄色の中に点で表されているのが『その現象を起こしているオリジン』を示す.

 例えば、各情報の源泉となっている引用文献などをいくつもみていると、この動きのオリジンが見えてきます。すなわち、その底流に流れている、例えば、
・多様な言語モデル
・その言語モデルをアプリケーションにつなげる仕組み
・生成文の幻覚を少なくする仕組み
・一般的な回答ではなく、ある分野に適した回答を生成できるような仕組み
・検索と組み合わせた生成(検索拡張生成)
・AIエージェント
などなどが、見えてくるのです。

對馬:
 「この新しい認知の道具は、『(プログラム化された)エージェント』という形で、自らが人間のようにふるまう仲間としても考えていかなければならないことが、複雑性を増してきていると言えます」とありますが、ここで、『(プログラム化された)エージェント』というのは、簡単にいうとどういうことなのでしょうか。また、「自らが人間のようにふるまう仲間としても考えていかなければならない」というのですが、これを考えるためには、「人間の定義」、「人間のようにふるまうものの定義」などを整理することがこれから必要になってくるのでしょうか。

遠藤:
 例えば、「Gemini」に、『生成型 AI エージェント』に関して聞いてみました。とすると「Gemini」は次のように答えます。
 生成型 AI エージェントとは、大規模言語モデル(LLM)のパワーを活用した生成モデルであり、ユーザーのクエリをより包括的に理解し、応答するタイプの AI エージェントです。以下は、これらのエージェントが特別な理由です。
○強みの組み合わせ:
生成型モデル(LLM):これらは大量のテキストデータでトレーニングされた AI モデルであり、人間品質のテキストを生成し、言語を翻訳し、さまざまな種類のクリエイティブ コンテンツを作成し、有益な方法で質問に答えることができます。
検索システム:生成型 AI エージェントは真空中で動作するわけではありません。多くの場合、検索システムを使用して、データベースまたはナレッジ ベースからクエリに一致する関連情報を検索します。
○ユーザーにとっての意味:
コンテキストに関連する回答:LLM と検索システムの機能を組み合わせることで、生成型 AI エージェントは、流暢なだけでなく、クエリの特定のコンテキストに関連する回答を提供できます。
より深い知識へのアクセス:関連するデータソースを検索することで、ジェネレーティブ AI エージェントは、単純な言語モデルではすぐには明らかにならない可能性のある情報を明らかにすることができます。
○実際のアプリケーション
エンタープライズナレッジ管理:従業員が会社のポリシーや手順について質問し、関連するドキュメントで裏付けられた明確な回答を受け取ることができるシステムを想像してみてください。
強化されたカスタマー サービス:ジェネレーティブ AI エージェントは、質問を理解するだけでなく、情報にアクセスして処理し、カスタマイズされたソリューションを提供できるチャットボットを強化できます。
考慮すべき制限:生成 AI は強力なツールですが、まだ開発中です。次の点に留意してください。
精度:他の AI システムと同様に、生成 AI エージェントは、トレーニングに使用したデータのバイアスやエラーの影響を受けやすい場合があります。
 実用的な洞察(まだ進化中)生成 AI エージェントは有益な回答を提供できますが、取得した情報に基づいてアクションを実行するという点では、まだ進化しています。全体的に、生成 AI エージェントは AI インタラクションの大きな前進であり、より繊細で有益な方法で情報にアクセスし、情報とやり取りする方法を提供します。

對馬:
 では、最後の質問です。遠藤さんのこれからのお話についていくために、下記の用語を簡単に紹介していただけないでしょうか。よろしくお願いします。
 ・New Modes of Thinking
 ・human-and-AI collaboration
 ・Co-Creation With AI
 ・Human-in-the-Loop
 ・New Way of Working
 ・New Way of Organization

遠藤:
New Modes of Thinking
 自分の思考モード自体を、これまでの日常生活レベルでの思考モードを使っていたのでは、今の変化についていくことは難しくなってきていると思われます。いわゆる「目覚めよ!」といわれている感じがしております。
Human-and-AI Collaboration
 生成AIにプロンプトして、その回答をつかって業務をおこなっている日常は、すでに、Human-and-AI Collaboration の日々をおくっていると感じています。
Co-Creation With AI
 上記のコラボレーションのレベルを越えて、例えば、新しいビジネスモデルのイノベーションをAIと共創していることも感じています。
Human-in-the-Loop
 プロンプトで新しい問い合わせをする度に、入力された人間側の文章は、大規模言語モデルの中へのコンテキストとして取り込まれており、人間もAI世界のループになっていると感じています。
New Way of Working
 上記の4つの例が日常のワークに入ってきている現状は、すでに毎日の働き方そのものが新しくなってきたなーと感じています。
New Way of Organization
 上述のように、日常の働き方もコラボレーションの仕方も、コクリエーションの仕方も新しくなってくると、当然のことながら組織自体も新しくなってくると感じております。
 私たちは、上記の用語が示す世界で生きていくことになりそうです。

對馬:
 いろいろ用語の説明などありがとうございました。次回は、毎日遠藤さんに洪水となって流れてくる生成AIに関する情報について、いろいろ伺い整理していきたいと思いますので、よろしくお願いします。