1年で風が1番強いのは何月?

(2019年4月執筆/2022年6月加筆修正)

 1年で1番,風が強いのは何月でしょうか.台風が襲来する9月,冷たい北風が吹く1月など,いろいろな月が候補に浮かぶのではないかと思います.そこで,気象庁の観測資料をもとに,茨城県つくばで1日の最大風速が10m/s以上であった日が1カ月に何日あったかを数えることで,風の強い月を調べました.
 図1に,2009年から2018年までの10年間に,最大風速が10m/s以上であった日数の月平均を黒の棒で示します.参考のために,1981年から2010年までの30年間に関して,最大風速が10m/s以上であった日数の月平均をメッシュの棒で示しました.ここで,日数1.0とは,黒の棒では2009年から2018年まで10年間で,メッシュの棒では1981年から2010年までの30年間で平均して,最大風速が10m/s以上の日が月に1日あったことを示します.

図1 つくばで日最大風速が10m/s以上であった月毎の日数.
黒帯は2009年から2018年までの10年間の平均,メッシュ帯は1981年から2010年までの30年間の平均を示す.

 この図から,最大風速が10m/s以上となる日は2月から4月に多く分布しており,台風が襲来することによる風の強い日が多いと考えられる9月や10月では0.5日前後と,1年間を見ると決して多くありません.このことから,1年で風が1番強いのは,2月から4月,すなわち,冬の終わりから春にかけてであることがわかります.北西からの冷たい空風(からっかぜ)が吹くなか,襟を立てて身をかがめての帰宅,あるいは,「春一番」と呼ばれる南からの暖かい強風にために,厚手のコートが邪魔になる昼間の外出,そして,満開であった桜の花びらを一瞬にして散らせる春の嵐を思い浮かべると,「この頃,風が強いのだな」と納得していただけるのではないでしょうか.

 つぎに,2月から4月に分布する風の強い日がどのような日であったかを天気図で見てみることにします.つくばで日最大風速が10m/s以上を記録した日の天気図をみると,いわゆる「西高東低の冬型」と「日本海低気圧型」気圧配置の2つに分類できます.
 前者の代表例として,2017年2月2日9時の天気図を図2に示します.これをみると,日本海を東進した低気圧は,北海道の東海上から千島列島付近に達すると,中心の気圧が960hPaと台風なみに発達します.このため,日本付近では等圧線が縦に密に走行することから,大陸の高気圧から低気圧に向かって,等圧線の急勾配をまるで転がり落ちるように強風が吹きます.北海道や本州日本海側では暴風雪警報などが発令され,降雪時には猛吹雪が発生ことさえあります.関東平野では「空風」とよばれる強風が吹き,つくばでも北北西から西北西の方向からの冷たい強風が吹きます.

図2 つくばで日最大風速が10m/s以上であった2017年2月2日9時の天気図
気象庁ホームページから).

 後者の代表例として,2018年4月11日9時の天気図を図3に示します.この日は,朝鮮半島にあった低気圧が日本海で988hPaに発達しながら東進しています.このように発達する低気圧の中には,その中心が2つあることから「二つ玉低気圧」とよばれるものもあります.この低気圧に向けて,南から湿った暖気が日本列島に流入します.このため,つくばでは南南西からの暖かい強風が吹きます.この強風は,脊梁山脈を越えて日本海側に達したときにフェーン現象をもたらすことがあり,農作物に干害を及ぼすだけでなく,大火災(2016年12月22日に発生した新潟県糸魚川市の大火など)の原因にもなることがあります.

図3 つくばで日最大風速が10m/s以上であった2018年4月11日9時の天気図
気象庁ホームページから)

 この2つの天気図には,日本列島を通過する低気圧が猛烈に発達するという共通点があげられます.すなわち,2月から4月に風の強い日が多いのは,上述のように低気圧の発達するための環境が整っているのです.では,なぜこの時期に低気圧が発達するのでしょうか.この時期,冬から春への季節の変わり目であり,日本付近では南北の気温差が大きくなります.このような中で,上空に寒気が流入すると大気が不安定となり,この不安定を解消させるために低気圧が発達するのです.これは南北の温度差が大きいほど,また上空の寒気の流入が強いほど大きくなります.気象情報で,「日本上空に強い寒気の流入がある」とアナウンスされるときは要注意です.

 なお,2009年から2018年までの10年間と1981年から2010年までの30年間を比較すると,1月は0.9日から0.1日に大幅に減少しています.この減少は12月にも見られます(0.7日から0.3日へ減少).1981年から2010年までの30年間の値は「平年値」とあるいは「気候値」呼ばれるもので,気温や風などの気象要素の基準となる値であり,長期間に見られる気象・気候の特徴を示すものです.ですから,この12月と1月の減少傾向は,ここ10年間に起きた現象だと判断されます.この12月と1月の風の強い日が減少したことは,冬型気圧配置の出現頻度が減少した(吉野,2008)ことによると考えられています.
 この気圧配置の時に吹く北西からの乾燥した強風を,北関東では,「赤城颪(おろし)」,「榛名颪」,そして「筑波颪」などと呼んでいました.また,この強風からの被害を受けないように,住居の北西側には「屋敷森」とよばれる樫や欅林が,また,畑にはお茶の木の垣根が植えられ,住居や田畑を守っていました.しかし最近では,「颪」という言葉を耳にすることが少なくなり,「屋敷森」やお茶の木の垣根を見る機会がめっきりと減りました.