気象庁が2023年9月1日に発表した「8月の天候」によれば、2023年の夏がかなり高温だったとのことです。この文書には、2023年8月の平均気温が平年(1991年から2010年までの30年間の平均)とどれだけ差(℃)があったのかに関する分布を示す図が掲載されています。これによると、北陸から東北地方、そして北海道の大部分の地域では、平均気温が平年と比較して3℃以上高かったことがわかります。一方、熊本や大分以南、そして四国、紀伊半島の一部では、平均気温が平年よりも高いといって高々1℃くらい、沖縄では平年とほぼ同じ気温でした。このように、今年の夏の高温は日本列島の南北で大きなちがいがあったことがわかります。
図1.2023年8月の平均気温平年差(℃)の分布.
8月に平均気温が3℃以上高いということは、その地点が緯度にして約4.5°、距離にして約500kmも南に移動したことを意味します。例えば、北海道の札幌はこの高温によって、宮城県の石巻まで移動したことに匹敵します(鳥谷,2022)。
では、降水量はどうだったでしょうか。同じく「8月の天候」で掲載された2023年8月の降水量平年比の分布(図2)を見ると、九州北部から中国地方、北陸から関東甲信越、東北、北海道南部で、降水量が平年よりも少なかったことがわかります。とくに、新潟県や山形・秋田・青森県の日本海側の北海道南端の地域では、降水量が平年の20%以下まで減少しました。これに対して、九州南部から四国、近畿、東海地方では、平年よりも降水量が多く、宮崎県や静岡県の一部の地域では300%以上、平年の3倍以上の降水量がありました。このように、2023年8月の降水量分布もまた、多い地域と少ない地域の差が大きかったことがわかります。
図2.2023年8月の降水量平年比の分布.
この気温と降水量分布の原因は、亜熱帯ジェット気流が日本の北を流れたために、北日本を中心に暖かい空気に覆われらこと、そして、台風第6号や第7号の影響により、南から湿った空気が流れ込みやすかったためとされています。
新潟県でも、2023年の夏は平年よりも高温で降水量が少なく、ほとんどの地域で平均気温は3.0℃以上、降水量は20%と以下になったと報告されています。この原因の一つにフェーン現象があろと考えられます。これは、南から流れ込んだ暖かく湿った空気が脊梁山脈を越えることにより、その風下では高温で乾燥した空気となって吹走する現象です。このため、風下の地域では、この高温・乾燥が作物の生育に影響を及ぼすことがしばしばあります。新潟県農林水産部では8月の1ヶ月間だけで、「フェーン・異常高温緊急情報」を4回も発表しました(新潟県,2023)。
「フェーン・異常高温緊急情報」では、空気の乾燥を示す指標として日平均飽差が用いられています。この飽差というのは、1m3の空気が水蒸気で飽和するまでにあと何gの水蒸気が必要かを示す値で、この数値が大きいほど空気が乾燥していることがわかります。また、この数値は空気が水蒸気で飽和するために「不足」している水分量を示す数値でもあることから、圃場や施設内での水管理にも広く使われています。
さて、「フェーン・異常高温緊急情報」が発表されるのは、日平均飽差は9g/m3 以上の時です。コシヒカリは、成熟期において籾に含まれている水分が 22%未満で日平均飽差9g/m3以上になると、胴割粒の増加など、品質が低下する傾向があるという研究結果が報告されています(新潟総合農業研究所,2023)。2023年8月は、「フェーン・異常高温緊急情報」が4回も発表され、成熟期に入ったコシヒカリが異常な高温と乾燥に遭遇したことから、コシヒカリを含めた米の品質が低下が懸念されています。