農業現場には「農業データ」がない

 (2022年4月執筆/2022年7月加筆修正)

 農林業経営体調査と農山村地域調査をもとに,令和2(2020)年2月1日現在でまとめられた「2020年農林業センサス」の農林業経営体調査報告の中に,「データを活用した農業を行っている経営体数」に関する統計があります.この調査項目は,2015年農林センサスまではなかったことから,スマート農業やデジタルトランスフォーメーションなど昨今の農業を取り巻く情勢が反映された調査項目だと考えられます.

データを活用した農業を行っている農業経営体数(全国)

農林水産統計 (令和3年4月27日公表)
2020年農林業センサス結果の概要(確定値)(令和2年2月1日現在)
P7より

 この調査の中で,「データを活用した農業」とは,効率的かつ効果的な農業経営を行うためにデータ(財務,市況,生産履歴,生育状況,気象状況,栽培管理などの情報)を活用した農業と定義されています.
 また,農家はその経営形態から2つのカテゴリーに分類されています.このうち,「個人経営体」とは個人(世帯)で農業を行う農家,「団体経営体」とは個人経営体以外の農家,例えば,農事組合法人や会社組織などの組織化された農家です.ただし,ここでは個人で農業をされている農家の中でも,法人化している農家は「団体経営体」に含まれます.
 さらに,農家がデータをどのように活用しているのかを示すカテゴリーとして,「データを取得して活用」,「データを取得・記録して活用」,そして「データを取得・分析して活用」が挙げられています.各カテゴリーの定義はつぎの通りです.

  1. データを取得して活用:気象,市況,土壌状態,地図,栽培技術などの経営外部データを取得するツールとしてスマートフォン,パソコン,タブレット,携帯電話,新聞などを用いて,取得したデータを効率的かつ効果的な農業経営を行うために活用すること.
  2. データを取得・記録して活用:「データを取得して活用」で取得した経営外部データに加え,財務,生産履歴、栽培管理、ほ場マップ情報、土壌診断情報などの経営内部データをスマートフォン,パソコン,タブレット,携帯電話などを用いて,取得したものをこれに記録して効率的かつ効果的な農業経営を行うために活用すること.
  3. データを取得・分析して活用:「データを取得して活用」や「データを取得・記録して活用」で把握したデータに加え,センサー,ドローン,カメラなどを用いて,気温,日照量,土壌水分・養分量,CO₂濃度などのほ場環境情報や,作物の大きさ,開花日,病気の発生などの生育状況といった経営内部データを取得し,専用のアプリ,パソコンのソフトなどで分析(アプリ・ソフトの種類,分析機能の水準などは問わない)して効率的かつ効果的な農業経営を行うために活用すること.

2020年農林業センサス結果の概要 11 用語の解説 P175より

 これらの定義からそれぞれの農家の具体的なデータ利用を私なりに理解すると,1.は,天気予報や土壌状態,地図などのデータを利用して2週間後までの農作業や農業機械の利用に関するスケジュールを組んだり,市況などの情報などをもとに出荷先を検討することができる農家,あるいは,ネットから栽培のノウハウを習得する新規就業者ではないでしょうか.また,2.は,自らの農業経営あるいは栽培管理に関する「記録」されたデータと,JAあるいは普及センターなどで作成されたデータを比較し,考察をすることで,「帰納的」な農業経営を行うことができる農家,3.は,圃場環境や生育状況の分析による栽培作業の最適化や,自らの農業簿記で損益分岐点などの分析をもとにした経営の拡大など,「観察」と「分析」をもとに新しい経営方向を模索できる進歩的な農家だと考えます.
 さて,この結果を見ると,全農家の83.0%,(「個人経営体」の84.1%,「団体経営体」の54.1%)が「データを活用した農業を行っていない」という衝撃的な事実がわかります.また,「データを活用した農業を行っている」農家の中でも,「データを取得・分析して活用」している農家は12.0(千)経営体であり,農家全体の1.1%しかないのです.農家の経営形態に注目しても,「データを取得・分析して活用」している農家は,「個人経営体」の0.9%,「団体経営体」でも7.2%に過ぎません.
 農業従事者の高齢化と減少,それに伴う耕作放棄地の増加,そして気候変化や異常気象など大きな問題を抱えている農業は,大きな変化が求められています.これにもかわらず,積極的にデータを活用し,農業経営の拡大や栽培管理の最適化など,将来を見据えた農業経営を検討する農家はいかに少ないかということ,そして,過去の経験のみに基づく農業経営と栽培管理を行い,現状維持で,最適性と将来の発展性を求めない旧態依然の農業を望む農家が多いということを,この統計は示しているのではないでしょうか.

 この統計結果から,私が農業現場で「農業データがない」と感じたのも,あながち嘘ではないことがおわかりいただけたかと思います.