2024年の夏の総括。その1.「ゲリラ豪雨」

 2024年、7月18日頃に梅雨明けした関東地方(気象庁)では、連日のように猛暑が続き、午後になると局地的な大雨に見舞われた日が目立ちました。

図1.2024年7月1日から8月31日までのアメダス練馬で観測された気温,風向・風速,降水量,そして日照時間の日別値の時間変化.気温(Air Temperature)とその平年値(Air Temperature Normal)を太い赤線と細い赤線で,風向を1日で卓越する風向きとして矢印で,風速(Wind Speed)を黒線で,降水量(Precipitation)を青帯で,日照時間(Sunshine)を赤帯で示す(気象庁HPより作図).

 図1から、東京都西部に位置する練馬では、7月1日から8月31日までに、日照時間が5時間、降水量が40mmを越える日が頻繁に現れていることがわかります(図1の赤枠で囲んだ日)。これらの日は、1日の中で顕著な晴れの時間と強い雨の時間があったことを示しています。このうち、7月20日には東京で断続的に雷が発生、足立区花火大会が中止になりました(Yahoo!ニュース)。さらに、8月7日には、埼玉県南部で大雨警報と洪水警報が発令されました(熊谷地方気象台)。このような日は、SNSなどでは「ゲリラ豪雨」発生日として取り上げられた日です。

 ここでは、アメダス練馬で観測した気象データから、「ゲリラ豪雨」が発生したとされる7月31日の気象を詳しく見ることにしましょう。

図2.アメダス練馬において,SNSなどで「ゲリラ豪雨」として取り上げられ7月31日の気温,風向と風速,降水量そして日照時間の10分値の時間変化(気象庁HPより作図).

 図2で、日照時間が10minというのは、その10分間、日射が雲の影響もなく、十二分に地表面に降り注いだことを示しています。すなわち、7月31日は日中、太陽が地表面に燦々と降り注ぎ、風向は北寄りの風が卓越していました。しかし、13時30分ころから、東から南寄りに風向きが変わると、雲の影響を受けて日射が弱くなります。そして、風が強くなり、雨が降り出すとともに気温が急激に低下しました。この雨は17時50分から18時の10分間に17mm、17時30分から18時30分の1時間に53.3mmにも達する強い雨でした。このため、気象庁は練馬区に18時9分に大雨警報、18時22分に洪水警報を発表しました(気象庁)(東京都心でゲリラ豪雨が発生 都内のあちこちで道路冠水も:ウエザーニュース)。
 また、赤いメッシュで示された降水量が80mm近くになった地域(図3)は、この日、東京都北部から東部、そして埼玉県南部までの距離30kmの範囲に限られたところであり、この強い雨の地域は局地的であったことがわかります。

図3.7月31日における東京、埼玉を中心とした地域の降水量分布(メッシュ農業気象データより作図)。

 このように、短時間の天気の急変と局地的な強い雨をもたらし、道路の冠水まで引き起こすこの降雨は、「ゲリラ豪雨」として多くの人々に強い印象を与えます。
 さて、この「ゲリラ豪雨」という用語を、気象庁「予報用語」で調べると、気象学的には使用を控える用語であり、「局地的大雨」、「集中豪雨」などと表現することが適切とされています。確かに、この「ゲリラ豪雨」という用語は,印象が先行して、その定義がはっきりしていないことから、その現象と影響を正確な情報として伝えにくい言葉(山下洋子, 2008)です。
 しかし、この「ゲリラ豪雨」の発生頻度が温暖化により増加し、人々の生活に少なからずの影響を与えることを考えると、今後、この現象をどのような用語で適切に伝えるかが課題となります。