今(2024)年の梅雨はどうだった?

 気象庁の発表によると、今(2024)年、関東地方では6月21日ごろに梅雨入りし、7月18日ごろに梅雨明けしました。平年の梅雨入りは6月7日、梅雨明けは7月19日ですから、今年の梅雨入りは、平年よりも14日遅く、梅雨明けは1日早くなりました(気象庁:令和6年の梅雨入りと梅雨明け(速報値)より)。また、東京都北の丸公園にあるアメダス東京で観測された梅雨期間の降水量は245.5mmと、平年の87%と少雨傾向だったことから、みなさんの中には「今年の梅雨は『空梅雨』だった」と思われる方も多いのではないでしょうか。
 しかし、6月9日ごろに梅雨入りし、7月19日ごろに梅雨明けした松山では、梅雨期間の降水量は685mm(平年の約1.5倍)となり、また、線状降水帯が発生したことから、土砂崩れのために3人もの方がお亡くなりになりました(東京新聞)。さらに、7月31日の時点で梅雨が明けていない山形県と秋田県では、7月26日から27日に記録的な大雨(過去に観測された雨量の1.5倍前後)となりました。このため、最上川などいくつかの川が氾濫し、多くの田畑が浸水したことから、主要生産物であるコメや大豆など多くの農作物の減収が懸念されます(NHK)。
 では、このように地域によって大きく異なる梅雨入りと梅雨明けは、どのように発表されるのでしょうか。気象庁によると、梅雨とは1ヶ月にわたる時間スケールと沖縄県から青森県までの広い範囲に影響を及ぼす空間スケールをもつ季節的な現象なので、全国を12ブロックに分け、ブロック毎に現在までの天候と数日から1週間程度の天候の予想から、梅雨入りと梅雨明けを発表するとのことです(気象庁季節予報作業指針)。また、梅雨入りと梅雨明けには5日間程度の移行期があることから、ある1日に特定することは難しいため、日付の末尾に「・・ごろ」と付けて発表するのはこのためです。さらに、『梅雨のはしり』、『梅雨の中休み』、そして、『梅雨の戻り』という言葉かあるのも、梅雨入りと梅雨明けの発表がいかに難しいのかを表しています。
 つぎに、1951年から2021年までの梅雨入り、梅雨明け、梅雨の期間とその降水量の変化(図)を見てみましょう。

図.1951年から2024年までの梅雨入り、梅雨明け、そして梅雨期間の降水量の変化.

この図の横軸は年、左縦軸は日付、青帯の下底と上底はそれぞれ梅雨入りと梅雨明けの日(左縦軸を参照)を、青帯の長さは梅雨の長さを示しています。また、濃い青線は梅雨期間の降水量を示しています(右縦軸を参照)。なお、1993年は梅雨明けの日を特定することできなかったため、梅雨入りの日、梅雨明けの日、そして梅雨期間の降水量を示していません。この年の夏は、全国的に低温と降雨の続く不順な天候だったため、水稲だけではなく、豆類や果実類、牧草など、多くの農作物が大きな被害を受けました(平成の大冷害:平成の農業気象災害)。さらに、左縦軸の6月10日と7月18日から右に伸びる薄い青色の破線は、それぞれ梅雨入りと梅雨明け、また濃い青色で太い破線は梅雨の降水量に関するトレンド(長期の変化の傾向)を示しています。
 この図から、梅雨入りの日は5月31日から6月20日ごろ、梅雨明けの日は6月30日から8月5日ごろの間を大きく変動していることがわかります。しかし、梅雨入りが早かった年が必ずしも梅雨明けも早いというわけではないので、梅雨の長さも23日間から61日間と大きく変動しています。梅雨の降水量の変動も大きいことがわかります(最大値は556mm、最小値は67mm)。さらに、梅雨の長い年が必ずしも降水量が多いわけではありません。この梅雨の降水量は、停滞する梅雨前線上を移動する低気圧や台風、また、上空への寒気の移流や湿った暖気の流入など、梅雨前線付近での擾乱(大気の乱れ)の頻度により大きく変わるとのことです。
 さて、1951年から2024年までに東京の平均気温は1.8℃上昇しており、気温に関しては温暖化の傾向が顕著だといわれています。図を見ると、梅雨入りは1990年頃からの早い日が、梅雨明けは1980年ごろからの遅い日がやや目立ちます。しかし、1951年から2024年までの73年間のトレンドを、統計的手法を用いて算出すると、梅雨入りは2日、梅雨明けは3日早くなっており、この結果、梅雨の期間は1日短くなっています。また、梅雨の降水量は33mmほど増加しています。
 これから、東京では、温暖化により、梅雨入り、梅雨明けは若干早くなり、梅雨の降水量はやや多くなったといえるのではないでしょうか。これは、春から夏にかけての季節の移り変わりが早くなってきたこと、そして、梅雨前線付近での擾乱の頻度が多くなったことを示すものと考えられます。

梅雨に関する言葉のメモ
空梅雨:梅雨期間に雨の日、そして降水量が少ない梅雨。
梅雨のはしり:梅雨入りの発表前に先立って現れるぐずついた天気。
梅雨の中休み:梅雨期間の中で現れる数日以上の晴れ、または曇りで日が射す期間。
梅雨の戻り:梅雨明け後に現れる持続的な悪天。