春先の凍霜害対策では、気象庁から発表される天気予報の最低気温と「霜に関する情報(霜注意報)」がまず確認されます。「今夜の最低気温は何°Cになるのか」。この問いは、作物を栽培する現場でごく自然に発せられるものです。実際、多くの夜では、この判断は大きく外れません。最低気温が高ければ霜による被害は出にくく、低ければその注意が必要になります。こうした経験則は、現在でも栽培現場で判断の基礎として有効です。
ところが、凍霜害が問題になる夜を振り返ると、しばしば次のような場面に出会います。予報の最低気温はそれほど低くなかったが、栽培現場では凍霜害が発生した。あるいは、その逆のケースもあります。これは、かなり低い最低気温が予想されていたのにもかかわらず、実際には被害がほとんど見られなかった夜です。同じ「最低気温」という数字を見ているのに結果が分かれる。この違和感こそが、凍霜害を理解ための重要な手がかりになります。

図1.作物表面で放射冷却が起こっているときの気温と葉温の関係(概念図).青い破線は気温,緑の実線は葉温を示す.夜間,作物表面(葉・芽など)では放射冷却により,葉温が気温よりも低下する.そして,作物体の温度が「凍霜害が生じる温度」を下回ると,凍霜害のリスクが高まる.
ここで、図1をご覧ください。この図は、凍霜害に至るまでの過程を、気温と作物体の温度の違いという視点で整理した概念図です。図に描かれている青い破線は気温を表しています。これは、天気予報やアメダスで示される気温に対応します。凍霜害を考えるうえで、この気温は重要なの出発点です。
一方、図の下側に描かれている緑の実線は作物そのものの温度を示しています。注目してほしいのは、気温の線と葉温の線のあいだに差が生じる点です。凍霜害が問題になる夜には、この差が大きくなります。この場合、作物体では放射冷却が起こり、周囲の空気に冷やされるだけでなく、夜空に向かう放射によって熱を失います。その結果、作物体の温度は、気温よりも先に、かつ大きく低下していきます。
図の途中に示されている赤い点線は、「凍霜害が生じる温度」を表しています。これは、作物が生理的に耐えられる温度の境界を示す概念的な線であり、葉温がこの境界を下回れば、凍霜害のリスクは高まります。この「凍霜害が生じる温度」は、作物の種類や生育段階によって異なります。ここで、重要なのは、この境界を越えるかどうかを決めているのが、気温ではなく、作物体の温度であるという点です。気温が0℃以上であっても、作物体の温度がこの「凍霜害が生じる温度」を下回れば、凍霜害のリスクは高くなります。
このように整理すると、凍霜害とは、「気温が低かったから起きる現象」ではなく、「作物がどこまで冷えたかによって決まる現象」であることが見えてきます。最低気温は、凍霜害を考えるための重要な情報です。しかし、それはあくまで出発点にすぎません。
次回(2月11日掲載予定)では、作物表面で起きている放射冷却とは何か、なぜ同じ気温条件でも圃場ごとに冷え方が違うのかに関して、もう一段踏み込んで見ていきます。