「去年と同じ栽培方法なのに、今年はうまくいかない」。そんな感覚をもったことはないでしょうか。このような時、天気予報では「今年は平年よりも○°C高い気温でした」などという表現を耳にします。この平年とは30年間の平均的な天候の状態と定義されており、寒さや暑さなどを比べるための基準となっています。なお、現在使われている平年値は1991年~2020年の30年間の平均値です。
栽培現場でも、日々の気温や降水量、日照時間などを説明する時に、この平年値(30年間の平均値)が使われます。しかし生産者の方々からは、「30年間の平均といわれてもピンとこない」、「最近の天候を基準にして考えたい」という声をよく耳にします。実際、栽培環境、品種、作期や作型、そして栽培技術は、ここ30年で大きく変わってきました。そのため、30年間の平均値である平年値に違和感を覚えるのは当然ことだと思います。
では、栽培現場にあうように、直近5年間の平均を使えばどうなるのでしょうか。たしかに、5年間の平均は、平年値と比較して最近の気温の年変化に見られる傾向をよく反映しており、現場の感覚に近いという大きな利点があります。

図1.(上図)静岡県菊川牧之原における日平均気温(2025年)、5年間の平均値(2020年から2024年まで)、平年値(1991年から2020年まで)の年変化.青線は2025年の日平均気温、赤線は2020年から2024年までの5年間の平均値、そして黒線は平年値をしめす.(下図)日平均気温(青線)、または5年間平均値(赤線)と平年値との差の年変化.
図1をみると、平年値と比較して、5年間の平均値は2025年との差が小さくなっていることがわかります。また、一年を通して平年値より高く、とくに春先や秋に差が大きいことが読み取れます。これは、5年間の平均値の方が、栽培現場の人々が2025年の気温変化に対してもっている感覚により近いことを示しています。
一方で、5年間の平均値は、年ごとの天候の影響を強く受け、変動が大きいという弱点もあります。そのため、栽培管理の基準(目安)として用いるには、使いにくい面があることも事実です。
そこで、5年間の平均値をそのまま使うのではなく、日々の天候による影響を抑えるために、平均値の平滑化を試みました。

図2.2020年から2024年までの平滑化した5年間の平均値と平年値との比較.赤破線は30日間の移動平均(MA 30 days),橙実線はLOWESS曲線(LOWESS frac=0.12)で平滑化した5年間の平均値,そして黒線は平年値を示す.ただし,LOWESS 曲線はfrac=0.12としたもの.なお、30日間の移動平均とLOWESS 曲線で平滑化した5年間の平均値には、ほとんど差がみられなかった.
図2から、平滑化した5年間の平均値を用いることで、栽培管理の判断に必要な時間スケールと考えられる約1か月~1.5か月の変化が見えるようになります。この図から、2020年から2024年の5年間の平均値は平年値よりも高温傾向であったことがわかります。とくに、1月上旬から4月下旬までのおよそ4カ月間は、その度合いが大きくなっています。また、6月上旬から9月下旬にかけても、高温傾向が顕著に現れています。前者の期間では、低温対策としてのべたがけやトンネル、被覆資材の選択などを、平年を基準とする場合よりも遅く、かつ短い期間の設置が考えられます。一方、高温による生理障害を防ぐためには、品種選択、播種や定植時の変更、作期の見直しなど、栽培体系そのものを調整することでリスクを低減する対策が考えられます。
このような、栽培の指標となる平滑化された2020年から2024年までの5年間の平均値に対して、2025年の日々の気温との差をプロットしたのが図3です。

図3.2025年の日平均気温に関して,平滑化された2020年から2024年までの5年間の平均値と平年値との差の年変化.青線は2025年の日平均気温、赤線は2020年から2024年までの5年間の移動平均、橙色実線はLOWESS曲線で平滑化された平均と平年値との差を示す.
この図から、いつ気温の変動が大きいのかがわかります。また、平年値または平滑化された5年間の平均値と特定の1年(ここでは2025年)の気温との差から、気温のゆれの大きい期間を把握することができます。これにより、凍霜害前夜や高温時の灌水、一時的な被覆・遮光、防除・施肥作業の前倒しや延期、さらには高温・強風時の一時的な作業中止など、現場での判断の目安を考えることができます。ですから、日平均気温の変動が大きいときは、高温障害や凍霜害などに対する注意しなければいけない時期が明確になるのです。
このように、平滑化された2020年から2024年までの5年間の平均値と平年値との差から見えてくる変化は、長期的な対策を考えるための材料となります。また、特定の年と平均との差から見えてくる変動は、短期的な対策を判断するための材料となります。
生産者の方が持っておられる「最近おかしい」、「作りにくい」という、とても大切な感覚を、平年値や5年間平均という「物差し」でわかりやすく可視化することで、気象データは栽培現場における判断の材料となります。そして、これからの農業では、「長い目で見て、どこがズレてきたのか」(変化)をみる長い物差しと、「最近はどう変わってきているか」(変動)を捉える短い物差しを使い分ける、いわば「二刀流」の考え方が重要になっていくでしょう。
次回は、この「変化」と「変動」について、お話しすることにします。
(脚注)
1)30日間の移動平均
・対象日の前後30日の平均値を、その日の値とします。
・これによって、1〜2か月以上の変動がよく見えるようになります。
・数日〜1週間の変動はほぼ消えてしまいます。
2)LOWESS
・対象日前後の値を、対象日から日数に応じた重み付けを行い、連続的に変化させる統計処理を施して求めます。このため、データの最初の部分、最後の部分も、同じように評価できます。
・fracは、平滑化する期間を決める値です。frac が小さいと寒の戻りや一時的な高温の影響を受けます。また、frac が大きいと春・夏・秋・冬の進行だけを残り、変動に対して鈍感になります。
・ここでは、作物の栽培期間を考慮して、約1か月~1.5か月スケールを基準とするために、frac=0.12としました。このため、日々の気温変動はノイズとして扱っています。