気象データを「判断する材料」として使う(3) 平年値・5年間の平均値・トレンドの使い分け

 毎日の気温のデータを見て、「いつもより気温が高い」と判断するとき、あなたは「どの数字」を基準にしていますか。平年値。直近数年の平均値。それとも、長期的な傾向。もしかしたら、感覚で判断しているということはありませんか。
 同じ「気温が高い」という状況でも、気温をどの基準と比べるかによって、その意味は大きく変わります。どの基準で、どんな判断に使うのかを意識することで、はじめて現場で役に立つ情報になるのです。
 気象データを「判断する材料」として使う(1)では、平年値あるいは5年間の平均値という「基準」についてお話しました。そして、(2)では、「変動」と「変化」という2つの動きが同時に存在することを見てきました。今回はその続きとして、気象データを判断の材料として使うために、平年値、5年間の平均値、そしてトレンドをどのように使い分ければよいのかについてお話します。
 まず、平年値、5年間の平均値、そしてトレンドの3つの基準の役割の違いについてお話しましょう。ここで言いたいのは、平年値、5年間の平均値、トレンドは、どれが正しいとか、どれが優れているという関係にはありません。それぞれ、判断に用いる時間軸(時間スケール)が違うということです。
 平年値は過去30年の平均値ですから、「その地域・その時期の普通」を示す基準となります。ですから、平年値の役割はその年が異常かどうかを評価することにあります。そして、「平年より2°C高い」といった表現は、その年の状況を評価するためのもので、その年の中でどう対応するのかを考えるための物差しとなります。水管理をどうするか、作業時期を前倒しするか、あるいは一時的な被覆や防除を行うか。こうした年内の対応判断に、平年値がよく向いています。
 一方で、「最近は、平年と言われてもピンとこない」、そして「ここ数年は、これくらいが普通だ」と感じている場合に登場するのが5年間の平均値です。5年間の平均値は、直近の5年間の状況を反映した基準で、平年値よりも現在に近い特徴を持っています。年ごとの天候のばらつきをある程度ならした、変化の兆しを示す基準と言えます。ですから、5年間の平均値は、「最近、何が普通になってきたか」を知るための道具となります。栽培する作物の作期を少しずらす、あるいは慣行で行われている作業を微調整するといった数年スケールの判断に向いています。平年値は10年間、変わりませんが、5年間の平均値は年ごとに更新します。そうすることで、現場感覚に合わせます。ただし、5年間の平均値は変動の影響も受けやすいため、長期の基準として使うには注意が必要です。
 トレンドは、数十年という時間スケールで見たときに、基準そのものがどう動いているかを示します。重要なのは、トレンドは今年の作業判断には向かないという点です。トレンドを見て「今年はどうするか」を決めることはできません。しかし、だからといって無視してよい情報ではないのです。トレンドを使うのは、「将来、この作り方を続けてよいか」を判断をする時です。新しい作目の導入、それに伴う作期の再設計、あるいは品種の更新、栽培体系の変更、新しい技術の導入などの判断は、1年単位ではなく、数年から10年以上の視点で考える必要があります。トレンドは、将来の作り方を考えるための情報なのです。
 このように、この3つの基準を整理すると、その役割ははっきりします。平年値はその年の対応を考えるため、5年間の平均値は最近の普通を知るため、そして、トレンドは将来の作り方を見直すための物差しです。どれか一つだけを見て判断すると、対応が遅れたり、やり過ぎたり、見直すべき点を見逃したりすることになります。
 また、ここには基準が動いていく変化ばかりでなく、基準の上下を動く変動もまた同時に存在します。重要なのは変動の大きさです。この変動の大きさによって、その年の備えや調整の必要性その方法が変わります。例えば、「高温」では、水管理を工夫する、あるいは被覆や遮光でしのぐなど、その作期の中での備えや調整です。
 気象データを判断に使うためには、どの基準をどんな判断に使うのか、その視点を持つことで、気象データは栽培現場におけるより確かな判断材料になります。