放射冷却と凍霜害(1)では、凍霜害は最低気温だけでは説明できず、作物の冷え方によって決まる現象であることを見てきました。では、なぜ作物は気温以上に冷えるのでしょうか。その鍵となるのが、「放射冷却」です。この放射冷却という言葉から、この現象は特別なもののように聞こえるかもしれません。しかし実際には、放射冷却は、多くの場所で、ほぼ毎晩起きている現象です。晴れた夜に、地面や屋根の表面が冷たくなる。夜明け前に、車のフロントガラスが結露したり、霜が付いたりする。これらもすべて、放射冷却の結果です。
ここで、重要なことは、放射冷却で冷えるのは大気というよりも、地面、葉、芽、屋根、車体といった物体の表面です。物体は、昼夜を問わず、L↑で示す長波放射(赤外放射)として熱を周囲に放出しています(図2)。日中は、K↓で示す短波放射(太陽放射)により太陽からの熱を吸収しています。この吸収する熱が放出する熱よりも大きいので、物体は暖まります。しかし、夜になると太陽放射はなくなり、物体から放出する熱の方が大きくなるため、物体は冷えていきます。とくに、雲が少なく、風の弱い夜には、物体からの長波放射による熱の損失が大きくなります。これが、放射冷却です。
作物の葉や芽も、同じように、夜間、周囲の空気と接してはいますが、同時に、放射によって夜空に熱の放出を続けています。風が弱いと、空気との熱のやり取りは小さくなりますが、放射による熱の損失は続きます。その結果、作物表面の温度は、周囲の気温よりも低くなることがあります。放射冷却と凍霜害(1)の図1で示した、気温と葉温のあいだに生じる差は、この放射冷却によって生まれます。
ここで押さえたいのは、夜に晴れていれば放射冷却は起きるということです。風が弱ければ、より強くなります。つまり、放射冷却そのものは、多くの夜に起きている現象です。問題になるのは、どの場所で、どの程度、作物が冷えるかということです。この違いが、「同じ最低気温なのに、圃場によって被害が違う」という結果を生みだします。

図2.作物の表面での放射による熱のやり取り(概念図).日中は,K↓で示す短波放射(太陽放射)による加熱とL↑で示した長波放射(作物からの放射)による冷却との収支により,作物の表面は暖まる.夜間は短波放射がなくなり,長波放射による熱の放出(L↑)が支配的になるため,作物の表面は冷える.雲がなく風の弱い夜には,大気からの下向き長波放射(L↓)が小さくなるので,その分だけ作物の冷え方は大きくなる.
また、作物表面での熱のやり取りは、放射だけではありません。気温が葉温より高い場合には、大気から葉への輸送が生じます。また、作物の表面で結露が起これば凝結による熱の放出によって、作物そのものは加熱されます。しかし、晴天で風の弱い夜、とくに凍霜害のリスクの高い夜は、夜空に向かう放射による熱の損失がそれらを上回るため、正味として作物表面は冷えていきます。
次回(2月16日掲載予定)では、なぜ放射冷却の影響が圃場ごとに異なるのか、なぜ「少し場所が違うだけ」で結果が変わるのかを見ていきます。そこでは、地形や周囲環境といった要因が、作物表面の冷え方にどのように関わっているのかを整理します。