放射冷却と凍霜害(1)では、凍霜害は、最低気温だけでは説明できないことを確認しました。(2)では、夜間、作物表面で起きている放射冷却のおはなしをしました。(3)では、凍霜害が圃場ごと、さらには同じ圃場内でも異なる理由を、凍霜害という現象の空間スケールの小ささという視点から見てきました。そして、(4)では、地形による局地的な大気現象が作物の冷え方にどのように影響を与えるのかを整理しました。 これらの議論は、一見すると別々の話題のように見えます。しかし、実はすべて、ひとつの結論に収束します。
凍霜害のお話をしているときに、これは「空気が冷える現象」と潜在的に考える人は少なくありません。おそらく、(3)、(4)のお話を聞いた人はそう考えるかと思います。しかし、凍霜害の本質は大気にはありません。放射冷却で直接冷えるのは、大気ではなく、「物」です。葉、芽、地表、作物体そのものが、夜空に向かって熱を放出し、冷えることで起こります。大気は、その結果として冷える場合もありますが、凍霜害を直接引き起こしているのは作物体の温度低下です。
ここで、凍霜害のお話をしていると、これを「大気が冷える現象」と捉えてしまうことがあります。しかし、凍霜害の本質は大気にはありません。放射冷却で直接冷えるのは、大気ではなく物体です。葉や芽、地表、作物体そのものが、夜空に向かって熱を放出し、冷えることで凍霜害は起こります。大気は、その結果として冷える場合もありますが、凍霜害を直接引き起こしているのは作物体の温度低下です。
そして、凍霜害とは、作物体そのものの温度が低下し、細胞間隙で氷晶が形成されることで生じる生理現象です。これに対して、降霜とは、夜間に空気が冷え、水蒸気が葉や地表に凝結・昇華して霜として付着する大気現象です。両者は同じ低温条件下で起こりやすいものの、本質的には異なる現象です。
話を戻しましょう。作物表面が放射冷却によって冷えると、葉温は周囲の気温よりも低くなります。このとき、天気予報やアメダスで示される気温が0℃を上回っていても、葉温は0℃を下回ることがあります。凍霜害の議論で混乱が生じやすいのは、気温と葉温を同じものとして扱ってしまうことにあります。しかし実際には、葉が感じているのは気温ではなく、葉自身の温度です。
作物には、低温に耐えられる限界があります。葉がある温度を下回ると、細胞質の周りにある細胞間隙に氷晶が形成され、細胞質の水が細胞間隙に移動します。その結果、細胞質の脱水が進み、細胞膜は収縮・変形し、最終的に破壊されます。これが凍霜害です。そして、これが生じる温度を、本稿では安全限界温度(福島県総合研究センター果樹研究所, 2013)です。この温度は、作物の種類や生育段階によって異なります。しかし重要なのは、この境界を越えるかどうかを決めているのが、気温ではなく、葉温であるという点です。
ここまでの議論を、ひとつの流れとして整理すると、次のようになります。空気が冷えるというよりも、葉(作物)が放射冷却によって冷える。その結果、葉温(作物の温度)が低下する。葉温(作物の温度)が安全限界温度にまで冷えると、葉(作物)の細胞で凍結が起こり、凍霜害として現れる。凍霜害とは、この現象の連鎖の最終段階にすぎません。
この結論に立つと、最低気温の位置づけも自然に整理できます。最低気温は、凍霜害が起きやすい夜かどうかを見極める入口の情報です。しかし、それだけで凍霜害の有無を説明しようとすると必ず無理が生じます。なぜなら、凍霜害を決めているのは、その夜、その圃場で、その作物がどこまで冷えたかだからです。凍霜害対策を考えるうえで、最も大切な視点は、次の一文に集約されます。
「凍霜害は、空気が冷えて起きるというよりも、作物そのものが冷えて起きる」。
すなわち、図5に示したように、凍霜害は「霜が降りた結果」ではありません。放射冷却によって作物体が冷え、葉温が耐凍性安全限界温度に達した結果として、細胞レベルの凍結が起こる現象です。霜の有無は、この過程の副次的な現れにすぎません。
この視点に立つことで、最低気温、放射冷却、圃場の差、地形など周囲環境といったこれまでの議論がひとつの体系として結びつきます。

図5.凍霜害の概念図.放射冷却によって作物表面(葉・芽など)が冷え,葉温が安全限界温度に達すると,細胞レベルで凍結が起こり,凍霜害として現れる.凍霜害は,大気ではなく、作物そのものが冷えることで生じる現象である.