鹿島灘からの東寄りの風はどこまで侵入するの?

 「鹿島灘からの東寄りの風が吹くか吹かないかでつくばの夏の天候が大きく変わる」ことは,「つくばの風(夏休み編)」でお話しました.ここで掲載した「第2図 つくばの風向頻度と風向別の平均気温」から,梅雨が終了する頃から秋霖が始まる頃までの夏の2ヶ月間では,平均すると,北東から東北東の風,すなわち,東寄りの風が吹く日には涼しくなること,そして,南から南南西が吹く日には暑くなることがわかります.では,このようにつくばの天候に影響を及ぼす東風がいったいどこまでその影響が及ぶのかを気象庁アメダスのデータを用いて調べてみました.ここで用いたデータは,2011年から2020年の鹿島灘から吹き込む東風の頻度が高い6月から7月までの梅雨の期間に関する,鹿島灘に面した茨城県鉾田から関東平野西端にある埼玉県寄居までの10地点の日最多風向と日平均気温,日照時間です.ここで,鉾田から寄居までの10地点の位置を図1に示します.

図1 日最多風向と日平均気温,日照時間を観測したアメダス地点10地点(東から鉾田土浦つくば下妻古河久喜館林熊谷鳩山そして寄居)の位置

 図2a,図2bに2011年から2020年までの6月,7月に関する10地点の日最多風向の頻度分布を示します.

図2a 2011年から2020年までの6月,7月に関する,10地点のうち,鉾田土浦つくば下妻古河そして久喜の6地点における日最多風向の頻度分布
図2b 2011年から2020年までの6月,7月に関する,10地点のうち,つくば下妻古河久喜館林熊谷鳩山そして寄居の8地点にける日最多風向の頻度分布.

 図2aと図2bを右から左に,鉾田から久喜まで,そしてつくばから寄居まで,東から西に日最多風向の頻度分布を見ていくと,鉾田土浦では北東風が卓越(頻度が高い)していますが,つくば以西では東南東から南東の風の頻度が高くなることがわかります.熊谷になると南南東の風の頻度が高くなり,鳩山寄居では南南東の風が卓越しています.このうち,つくば以西で東南東から南東の風の頻度が高いのは,筑波山の影響,すなわち鹿島灘からの風が筑波山の南を回り込むことが原因のようにもみえます.

 さて,つくばでは,夏,風向が異なることによって,気温や日照時間に違いが現れます.ということは,卓越風向が異なる地域では,気温や日照時間に違いがあらわれることが想像されます.そこで,同期間の10地点がある北関東地域で,日平均気温と日照時間が地域によってどのように違いがあるかを明らかにするために,日平均気温の期間平均の分布を図3に,日照時間の期間平均の分布を図4に示します.なお,この図は農研機構「メッシュ農業気象データシステム」から取得した,日平均気温と日照時間のデータをもとに作成しました.

図3 2011年から2020年までの6月,7月に関する10地点を含める北関東地域における日平均気温の期間平均の分布.

 図3の濃い青色の地域は平均気温が21.5℃以下の地域を示しており,埼玉県の秩父山地,群馬県の榛名山赤城山,そして茨城県の八溝山地から筑波山がこれにあたります.また,22.5℃以下を示す白色から薄い青色の地域は鉾田など霞ヶ浦西端から東に分布しており,23.5℃以上の濃い赤色の地域は久喜から館林以西に分布います.この間の約23℃をしめす薄い赤色の地域は土浦から古河に分布していることから,鉾田から寄居までの地域が,この3地域に分かれるように見えます.

図4 2011年から2020年までの6月,7月に関する10地点を含める北関東地域における日照時間の期間平均の分布.

 図4から,秩父山地榛名山赤城山八溝山地から筑波山など標高の高い地域は日照時間が短いことがわかります.これに対して,鹿島灘沿岸,茨城県南部と西部,そして埼玉県北部から群馬県南部に日照時間の長い地域が分布しています.この日照時間の長い2つの地域の間には,日照時間が周囲と比較して1h/dayほど短いことを示す薄青色の地域が南北に帯をなして分布しています.
 この日照時間の短い地域では,図2から卓越風向が東南東から南南東に変化すること,図3から気温が23℃から23.5℃と大きく変化することがわかります.すなわち,この日照時間の短い地域の東側では東南東の風が卓越し,その西側では南南東の風が卓越し,東側と比較して高温になっているのです.このことから,この日照時間の短い地域は異なる特徴をもつ空気の境界になっていることが考えられます.とすると,「鹿島灘からの東風は,この日照時間の短い地域,すなわち茨城県と埼玉県の境付近まで達するのではないか」と言っても良いのではないでしょうか.

 ところで,日平均気温の分布で見られる濃い赤色の地域は,夏には高温となる全国でも有数の地域で,この地域にある熊谷では2018年7月23日に41.1℃を記録しました(2022年8月15日現在,この気温は歴代1位の最高気温です).また,この地域では,2010年,2012年に埼玉県の代表的なコメの品種「彩のかがやき」で高温障害(白未熟粒)が多発し,品質の低下をもたらしました.