気温のおはなし

(2021年4月執筆/2022年6月加筆修正)

 今(2021)年,つくばでは3月17日にサクラが開花ました.これは,観測史上で最も早い開花ではないでしょうか.2020年12月中旬から1月中旬までは,数度にわたる寒波の来襲により気温が低く,記録的な降雪量がありましたが,その後は,一転して気温の高い日が続き,2月の平均気温は平年よりも2.5℃以上高くなりました.
 このように気温の値が平年と比較して高い時に,「気温が1℃上昇すると,その地点は緯度にして約1°(約111km)南下したことになる」というフレーズをよく耳にします.このことを確かめるために,理科年表のデータをもとに,縦軸に緯度,横軸に年平均気温の平年値をとり,日本の代表的な地点の緯度と気温との関係を調べました(図1).

図1 日本の代表的な地点の緯度と年平均気温の平年値

 ここで,平年値とは30年間の平均値のことで,暑さ・寒さを示す指標の基準になる値です.4月1日現在では,1981年から2010年の30年間の平均値を用いていますが,5月19日からは,1991年から2020年の30年間の平均値を用いることになります。この平年値の切り替えにより,年平均気温は全国で0.1℃から0.5℃高くなることから,この平年値を基準にして暑さ・寒さを示す指標を示す場合には注意が必要です.
 図1から,日本の代表的な地点を示す点は,緯度では26°から46°,年平均気温では5℃から25℃の範囲で分布していることがわかります.またこの図には,緯度1°の変化に対して気温が1℃変化することを示す破線を付しましたが,ほとんどの点はこの破線上あるいはその周囲に分布していることがわかります.このことから,日本の代表的な地点のほとんどでは,年平均気温に関して,「気温が1℃上昇すると、その地点は緯度にして約1°南下することになる」といえることがわかります.
 さて,この緯度と気温の関係は季節によって変化をします.この緯度と気温の関係を一次回帰式で表し,その傾きを月ごとに示すことにします(図2).この傾きは2月では-1.20と最小値を,8月では-0.66と最大値をとります.傾きが負数なのは南下すると気温が上昇することを示しており,2月では緯度で1°南下すると1.20℃,8月では0.65℃上昇することがわかります.このように,暖候期(4月から9月)と比較して,寒候期(10月から3月)の傾きが負の値でその絶対値が大きいことから,寒候期は南下すると気温の上昇が大きい,すなわち南北の気温変化が大きいことがわかります.

図2 緯度1°あたりの気温変化に関する季節変化

 この暖候期と寒候期の南北の気温変化の違いは,日本を覆う気団が異なることよります.寒候期,とくに冬はシベリア気団に覆われますが,この気団はユーラシア大陸東部シベリアで形成され,冷たく乾燥しており,南北の気温変化が大きいことが特徴です.一方,暖候期,とくに夏に日本を覆う小笠原(北太平洋)気団は,太平洋北部(海洋)で形成され,温暖・湿潤であり,南北の気温変化が小さくなっています.このように,日本を覆う気団よって緯度と気温の関係が変化するのです.
 ところで,図1の北緯35°から37°付近では,緯度1°の変化に対して気温が1℃変化することを示す破線から大きく離れている点がいくつかあります,これらの点は,軽井沢,長野,松本,そして高山など長野県と岐阜県の内陸で標高の高い地点を示しています.このように気温は標高にも関係します.
 図3に新潟にあるアメダス地点での観測資料をもとに,標高と気温との関係を示します.縦軸に標高,横軸に年平均気温の平年値をとりました.ここでは,緯度の違いによる気温の変化を取り除くために,新潟県なかでもほぼ同緯度に位置し,標高450mまで分布するアメダス地点,28地点の値をプロットしました.また,この図には,標準大気の気温減率を破線で示しました.この標準大気は中緯度地域の平均的な状態を示す大気であり,地表面から高度11kmまでの対流圏では高度が100m上昇するごとに気温が0.65℃低下するという気温減率をもちます.標高50m以下の観測地点のほとんどは平野部にあり,これらを示す点は12℃から14℃に幅広く分布していますが,ほぼ,標準大気の気温減率を示す破線に沿って分布していることがわかります.

図3 新潟県のアメダス観測地点の標高と年平均気温の平年値

 このように,ある地点の気温は,その地点の緯度,その時期に覆われる気団,そして標高によって大きく左右されることがわかります.そのほかに,内陸度(海岸線からの距離)や周辺の地形,地表面の状態などにも影響をうけることが考えられます.

参考
木村龍治(2017):対流圏の気温減率はなぜ6.5K/kmなのか.天気,64(3),147-156.