気温の測定はけっこう難しい

 (2020年1月執筆/2022年7月加筆修正)

 2019年12月13日(金)の朝,友人からいつものようにtweetが届きました.
「つくば 午前5時半起床.晴れ.気温2.9度.西風.真っ暗.日の出まであと1時間もある.」
 彼は,朝のtweetにつくばの気温をかならず掲載します.しかし,tweetのために自宅で気温を測定するほど,まめな人ではありません.では,この気温は「つくば」のどこの気温なのでしょう?
 任意の地点における気温はgoogleなどを使って検索することができます.この値は,ウェザーニュースという気象情報会社が,気象庁や自社の観測値をもとに,気象モデルを用いて推定した値です.googleでは,2019年12月13日(金)の朝,「茨城県つくば市 05:00 3℃」と表示されましたが,このように,検索エンジンによる気温は,観測値ではなく,推定値であることから,「整数値」で提供されています.
 これに対して,上記の投稿のように2.9℃と「小数点第1位」で発表される値は,通常は,気象庁が気象観測をする地点で測定された気温です.すなわち,この値は,つくば市の南部,長峰にある気象庁高層気象台にあるアメダス観測地点(北緯36度3.4分,東経140度7.5分,標高25m)で,2019年12月13日午前5時の測定値として発表されたものです.もっと詳しく言えば,午前5時に地上から高さ1.5mに設置された強制通風筒の中に取り付けた温度センサーによって測定された気温の瞬間値です(気象庁(2002),地上気象観測指針,P13).
 気象観測地点で気温を測定する場合,上述のように測定高度が決められています.それは,地表面付近では,気温が高さによって値が大きく変化することがあるからです.高さ1.5mの気温は,太陽が燦々と照りつける日中に,地表面付近の気温よりも10℃以上低くなることがあります.逆に,雲が一つもなく,月が煌々と輝く夜間には,5℃以上高くなることもあるのです.ですから,測定高度を定めて,気温を測定することが必要となります.気温を測定する高さは,世界気象機関WMOでは地上1.25〜 2.0m,日本では,気象庁では1.5 mと定められています(気象庁(1998),気象観測の手引き,P13).
 気温を測定する高度が決まっても,これを測定するのはけっこう難しいことはご存じですか.体温は温度計(体温計)を脇に挟むことで測定できますが,大気中にセンサーをおくことだけでは気温は測定することはできません.それは,大気中においたセンサーは,気温ではなく,センサー自身の温度を測定するからです.このセンサーが測定した温度は,気温に,太陽からの放射(太陽放射,日射)と大気からの放射(大気放射),そして風雨などの影響を受けた温度が加わった温度を測定しているのです.
 この太陽放射と大気放射,風雨などの影響を取り除くために,以前は,「百葉箱」という物の中に温度センサーを取り付けて,気温を測定していました.みなさんが小学校や中学校の校庭の片隅で見かけていた,白塗りでよろい戸のついた木箱です(写真1).このほかに,白いお皿を裏返しにして,間隔を開けながら重ね合わせた構造をしたシェルターの中にセンサーを取り付けて,気温を測定することがあります.このシェルターは,「自然通風筒」(写真2)と呼ばれています.この「百葉箱」や「自然通風筒」によって,センサーは,太陽放射と大気放射,風雨などの影響を受けずに,気温を測定することができます.しかし,無風で強い日射を受ける時には,これの中では空気がよどむために,気温は真の値よりも4 ℃ほど誤って測定されることがあります(気象測器検定試験センター,2013).

写真1 百葉箱(種苗管理センター胆振農場にて)

写真2 自然通風筒(農業環境変動研究センターにて).


 そこで,アメダス地点では,シェルターの中で空気がよどまないようにするために,強制的に空気が流れる仕組みのついた「強制通風筒」を使用しています.この強制通風筒を写真3に,また,その仕組みを図1に示します.

 

写真3 強制通風筒(アメダス土浦にて)

図1 強制通風筒の構造

 この通風筒は,外管と内管の2重管構造になっており,センサーは内管の中央に取り付けられています.また,上部に取り付けられたファンによって,外管と内管の間,そして内管の中を,空気が下から上に約5m/sの風速で流れるようになっています.
 この構造によって,風雨によるセンサーへの影響がなくなります.また,外管と内管は熱を伝えにくいステンレスや塩化ビニールでできており,その外管と内管の間を空気が流れていることから,これによる断熱効果がとても大きいので,外管が受ける太陽や大気からの放射による,センサーへの熱的な影響が最小限になります.さらに,内管の中の空気が流れているので,センサー付近で空気がよどむことによって生じる影響が取り除かれます.このような構造により,高度1.5mにある空気の取り入れ口から吸引された空気がセンサーに直接当たることで,気温が測定されます.
 しかし,このように強制通風筒の中にセンサーを取り付けても,太陽や大気からの放射などの影響を完全に取り除くことは困難だそうで,真の値と比較して0.1~0.2 ℃の誤差がでることがあるそうです.

 このように気温を定義通りに測定するのは,けっこう難しいのです.

(参考文献)

桑形恒男・福岡峰彦(2018):連載講座「栽培環境における気温の観測技法と利用」(1)気温観測の理論と注意点,生物と気象,18,97-102